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49 心配させるな R18

「うっ」  急な胸の痛みにその場に膝から崩れ落ちる。はぁはぁと荒い息を繰り返して酸素を貪った。胸がツキンツキンと痛み始める。その場に倒れ込んでしまった。芝生が顔に当たってちくちくする。 「ふっ……うっ」  だんだんと息が浅くなる。苦しい。胸が痛い。なにより体が燃えるように熱い。今までの発情期の比じゃない。  ポケットから抑制剤の入った小瓶を取り出す。震える手でキャップを開けた。ぶわっと炎に飲まれたかのような熱さに体が痙攣し始める。飲酒後の抑制剤の使用は避けてくださいと言われているものの、今飲まなければ確実に襲われてしまう。もうあんな思いはしたくなかった。抑制剤を手のひらに置いてなんとか口に入れようとした。そのとき誰かの足音が地面の振動で伝わってきた。    やばい。ヤられる。  なんとか逃げ出そうと言うことをきかない手足を動かす。地面を這いつくばって木陰の方に向かっていった。月の光が青白く野原を照らす。  すると誰かに勢いよく体を抱き起こされた。  ああ、この匂い安心する。  俺は全身の力を抜いて横抱きにされた。揺れる視界の中で彼の黒髪が夜風に靡いている。そのまま森の中に進んでいくのをぼんやりと眺めていた。  20分ほど歩いているとある場所で足が止まる。そこはログハウスのようだった。逞しい腕で俺のことを抱き寄せたかと思ったら、彼の指は部屋の電気をつけるためにスイッチに触れる。長く綺麗な指をしていると思いながら部屋の中のベッドに下ろされた。 「……意識はあるな」 「は……い……」  掠れた声で返事をするとすぐにミネラルウォーターを持ってきてくれた。 「酒を飲んだんだな」  こくこくと頷くと頭上から静かなため息が落ちてきた。怒られると思って身をすくめる。すると降ってきたのはあまりにも優しい声だった。 「無理はするなと言っておけばよかったな。悪い。俺がもっと言い聞かせておくべきだった」  そう言ってキャップを開けることすらできない俺の手からペットボトルを取り上げる。それを口に含むと俺の唇に優しく口をつけた。  なんて甘い水なんだろう。  開いた口から染み渡る水のあたたかさに心が震える。不意にぽろぽろと涙が溢れてきた。こんな自分が情けなくて悔しくてもう何度も泣いてきたのに涙が枯れることはない。  俺のフェロモンがだだ漏れで辛いはずなのに、今にも襲いたいはずなのに小鳥遊部長は強靭な理性でそれを耐えている。何食わぬ顔で俺のことを看病してくれている。それが嬉しくて申し訳なくてさらに泣けてくる。先程ポケットの中の薬は取られてしまったから自力でおさめるしかない。ゆっくりと足の間に手を入れる。見られていようと関係なかった。本能が理性を追い越していく。 「ふ……っう……ん」  女のような高い声をあげて俺は感じた。先走りの溢れたそこに指を這わせる。悲鳴をあげてしまうほど気持ちがいい。どんな顔で見られているんだろう。怖くて小鳥遊部長を見上げることができない。こんな痴態を晒すのもほんとうはすごく怖いし嫌だ。でも止められない。 「岸本。もういい」  目の前で直立していた部長が枕元に口を近づけた。涙を指の腹ですくうと困ったように微笑んでくる。 「セックスしようか」 「っ」  あの堅物な部長からセックスなんて言葉が出てくるなんて、とさすがの俺も動かしていた指が一瞬だけ止まった。しかしまたかぁぁっと熱を帯びてきてしまい手が激しく動き始める。これじゃあその言葉に興奮しているみたいじゃないか。 「岸本脱がすぞ」 「あ……」  ゆっくりと服を脱がされる。ほんの些細な刺激でも感じてしまう。なるべく布が擦れないように気をつけてくれている。部長の優しさが指から伝わってきて胸が打ち震えた。 「んあっ……」  部長の指が肋骨のあたりをさすってくる。滑らかな動きで恥骨のあたりから脇までのラインを一直線で撫でられると腹の奥がふつふつと煮え立つようだった。裸にされたまま自身を追い詰めていると小鳥遊部長が素早く服を脱いだ。  ログハウスの中がオレンジ色の光で溢れる。筋肉質な胸が目の前に近づいてきた。そのまま2人でベッドに横になる。髪を撫でる部長の手つきは柔らかい。少しだけ気持ちが落ち着くような気がした。 「岸本……」  心底心配するような声で部長が名前を呼ぶ。黒曜石のような綺麗な瞳がこちらをのぞいていた。小鳥遊部長の屹立したものが俺の太腿に当たる。きっととてつもなく我慢をしているはずだ。俺以上に辛い思いをしているかもしれない。そう思うと体は素直に反応した。キスを求めて小鳥遊部長の唇にかぶりつく。俺が上になって部長の体をベッドに沈めた。爛々と光るライトの下では恥ずかしいところも丸見えで隠すことなんてできない。

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