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52 忠犬社員の1日(岸本side)

 部長をからかうのは楽しい。番になって1週間が経った頃、いつものように仕事中は上司と部下という関係で過ごしている。  仏頂面の部長の慌てた顔や気持ちよさそうな顔が見れるのは自分だけの特権だった。寝起きの不機嫌そうな顔を拝めるのもこの世で唯一俺だけだった。  部長の住むマンションに引っ越してから毎日が輝いて見えた。朝食と夕食の準備はいつも献立に悩みながら作っていて新婚気分だった。きっとそれも俺だけなんだろうけど、毎日部長の隣にいれるのは嬉しい。部長はよく俺のことを大型犬みたいだって言うけど、最近自分でもそう思うようになっていた。部長よりちょっと背の高い俺だけど、丸い形をしている頭に顎を乗っけるのが大好きだった。毎回暴れて逃げられてしまうのだがそれを追いかけるのも一興だった。 「岸本」 「はい」  くるっと名前を呼ばれた方向を振り向く。今日は休日で小鳥遊部長は朝からコーヒーを飲んで新聞を眺めている。今時新聞を取っているなんて珍しいですねと言うと、今読んでるのは日経新聞だから会社から借りているのだという。休みの日も時間があれば新聞を隅から隅まで目を通している部長のことを俺は心の底から尊敬している。 「今日はクローゼットの整理を頼む」  じんわりと梅雨の暑さがやってきた今日この頃、久しぶりの青空が窓から見える。窓の隙間からじめっとした風が吹いてきて部屋の中を梅雨の匂いでいっぱいにする。 「わかりました。ちゃっちゃとやっちゃいますね」 「ああ……終わったら声をかけてくれ」

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