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58 ありえない事態です(side 岸本)
その日は1日俺の仕事は休みだった。明後日の新入社員研修会のために1日休みがずれたのだった。
小鳥遊部長は普段通り出勤していってしまったから広いリビングには1人きり。大きなソファを独り占めできた喜びと、ひとりぼっちの部屋の物悲しさの両方が俺に襲いかかる。そんなときは夕飯の献立でも考えるのがいい時間の潰し方になっていた。
午後2時をまわった頃、本屋で買ってきたレシピ本を眺めているとなんだか頭がじくじく痛む。体温計で熱を測ると38℃もあった。
「まいったな」
病院に行くほどでもないが、一応常備薬を飲んでおこうと思って前に部長が教えてくれた棚に手を伸ばす。するとぐらりとめまいが襲ってきた。慌てて棚の縁に手をかける。視界がゆらゆらと揺れて気持ち悪い。そのままゆっくりと膝を抱えて座る。
どうしたんだろう、俺。
とりあえずベッドに行こうと思って壁に手をつきながら廊下を歩く。熱が上がっているのがわかった。心臓がありえないほどの速さで早鐘を打っている。普通の熱と何かが違うと思った。忌まわしいほど何度も経験してきたアレの前触れのようだと思いながら頭を振る。
そんなはずないよな。だって俺小鳥遊部長と番になったんだから……。
自分に言い聞かせるように胸をそっと叩く。大丈夫、大丈夫と小声で呟いてどうにか落ち着こうとする。パニックになりそうな体を必死で抱きしめた。ベッドに横になっているのに体が浮き上がってしまいそうなほどふらふらとする。
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