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63 後悔と希望
「わかった。じゃあ、戸建てにしよう。今度、リブハウスのオープンハウスを紹介するよ」
現実離れした言葉に狼狽えてしまう。岸本はおずおずと疑問を口にした。
「天海さんは運命の番というものを信じているんですか?」
「もちろん。ずっと探していた」
岸本は唇を噛む。自分を心から欲してくれる人がいる。しかもリブハウスの社長という肩書き。この人のそばにいれば、番になれば地位も名誉も手に入れられる。オメガの綿貫でさえ秘書に上り詰めている。俺もリブハウスに転職したら、きっと上の地位まで登れる。
スバルホームズでは叶わない夢が、今現実となって岸本の目の前にある。それを掴みとろうと手を伸ばしても、やはり記憶の中にはあの人がいて後ろ髪を引かれる思いに囚われてしまう。
自分ばかり幸せになっていいのだろうか。あの人のことは誰が面倒を見るんだろう。食事も洗濯も添い寝も自分の他に誰がしてあげるんだろう、と過去に引き寄せられてしまう。まだ吹っ切れていない。
「岸本くんは信じていないのかい?」
「あまり信じていませんでした。でも、天海さんとならきっと……」
そこから先は言葉にできなかった。やはり、別の人物の顔が頭に浮かんでしまったからだ。岸本は首を横に振って残像をかき消す。あれは一夜の過ちが重なり合っただけだ。ビジネス番なんてものの効力もなかったし、今なら天海さんと番になれるはずだ。
天海は岸本の答えをじっと待つ。紳士な彼の人柄が直に伝わってくる。この人はきっと俺に優しくしてくれる。
「よろしくお願いします」
何に対して、だろう。恋人になることか、番になることか、あるいは家族になることか。
天海は嬉しそうに口端を上げる。
「また食事をしよう」
わかりました、と答えて岸本も笑顔になる。大丈夫。この人とならきっと明るい未来が描ける。そう信じて、差し出された手をとった。この人は自分の運命の人なんだから。
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