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65 甘いもの(side 岸本)R18

 天海恭平は甘党だ。そして俺も甘党だ。  だから自然と2人でのデートはカフェか甘味処が多い。今日は7回目のデートになる。この間の有給休暇のときは温泉にも泊まった。箱根の温泉で、割烹料理がおいしかった。すごくやさしくしてくれた。でも、紳士な彼は手を出してこなかった。本当に優しくされているのだと心から感じる。この関係が自分には奇跡のように思えた。自分が本当に天海さんの運命の番なのか疑ってしまうほどに。彼はやさしさのかたまりだった。 「お疲れ様」 「お疲れ様です」  今日は仕事終わりにディナーに呼ばれた。都内のホテルの最上階にあるイタリアンレストランだった。そこは展望席があり、眼下の景色がよく見える。白銀の食器が置かれた席に座る。テーブルマナーも天海から一通り教わり、失敗することは減ってきた。  付き合ってから2ヶ月になる。仕事がどんなに忙しくても天海さんは嫌な顔ひとつしないで俺に接してくれる。愛されているのだと全身で伝えてきてくれる。それが素直に嬉しかった。  ライバル会社なので仕事の話はあまりしないようにしている。それは天海さんも同じだった。だからデートのときは学生時代の思い出話なんかを話した。  天海さんは学生時代サッカーをやっていたという。俺も高校まではサッカー|一筋《ひとすじ》で、大学ではフットサルをやっていたことを伝えると、今度対決しようと言われた。同じ趣味の相手と初めて出会ったせいか、波長が合うなと直感的に思った。好きなスポーツが同じだとさらに距離が縮まる気がする。 「ごちそうさまでした」  食事を終えて手を合わせる俺を、天海さんはいつも優しい顔で眺めてくる。目を線にしてにこっと微笑んでくるのだ。この時間が幸せだった。展望席から窓の外を見下ろすと、すでに陽が落ち始めていた。そろそろお酒を飲み出す頃かなと思って楽しみにしていると、天海さんは俺をじっと見つめてきた。その視線が力強くて、俺はどきどきと胸を高鳴らせる。何か重大なことを言われるに違いない。天海さんはいつのまにか男の目になっていた。  天海さんは静かに口を開いた。 「今夜は部屋を取ってある。2人で酒でも飲んで話さないか?」 「はい」  珍しい夜の誘いだった。お酒はいつも天海さん行きつけのバーで飲んでいたから。2人きりで飲むのは初めてだった。  天海さんの後ろに続いて案内された部屋に入る。スイートの部屋だった。部屋の端にはガラス張りの浴室があってジャグジーが付いていた。部屋の中央にある猫足の丸テーブルにはシャンパンが置いてある。  天海さんは俺に座るように促すと、グラスにシャンパンを注いでくれた。しゅわしゅわと弾ける泡に目がいく。相当高価なものなんだろうなと思う。 「乾杯」  カチンとグラスを合わせてから、少しシャンパンを口に含む。 「美味いです」 「だろう? 2本目も用意してもらってあるから、遠慮せずに飲んで」 「ありがとうございます」  2人で談笑しながらシャンパンを飲み干す。いつのまにか2本目に突入していた。酒に弱い俺はすでに酔っ払っていた。天海さんは酒に強いのか全く酔う気配がない。 「もうそろそろお開きにしようか」 「……はい」  飲みすぎてしまったかもしれない。でも、気分はいいし意識も明瞭だ。天海さんと酒を飲むようになってから、少しは耐性がついたのだろうか。 「眠い?」 「まだ大丈夫です」  そう、と呟くと俺の視界がぐるりと回った。世界が一回転したみたいだった。とさっとベッドの上におろされる。 「っ」  気づけば天海さんにキスをされていた。何度も啄むようなキスの雨が降る。デートの帰り際にいつも優しくキスをしてくれたが、今日は一度では終わらない。 「んっ」  唇をノックするような動きに合わせて、俺も口を開いた。ぬるり、と口内に侵入してきた舌は熱くて溶けそうだ。俺の息継ぎを待つようにゆっくりと舌を舐めてくる。数十秒すると、やっと口を離してくれた。 「いきなりでごめんね。あまりにも可愛くて止められなかった」  少し照れたように笑う天海さんを見て、そんなところも魅力的だと思う。 「俺も嬉しいです」  素直に言葉を放つと、今度はぐっと身体を抱き寄せられる。俺より数センチ背の高い天海さんの腕の中に閉じ込められた。この腕の中は安心する。自分の心が、身体がほどけていくのがわかる。  そのままベッドに押し倒され、深いキスを味わう。いつまでそうしていただろうか。天海さんが俺のワイシャツに手をかけてくる。俺はされるがまま、じっと天海さんの目を見つめていた。  それからお互い服を脱ぎ去って絡み合う。お互いの唾液が、顎を流れてシーツを濡らした。俺はもっと近くに天海さんを感じたくて腕を背中に回す。少し驚いたように目を見張ると、天海さんは俺の頭を優しく撫でてくれた。あまりの気持ちよさに目がとろんと揺れる。 「嫌じゃない?」  今更何をいうんだろう。いいに決まっている。  俺はこくんと頷き、天海さんのものを自身の濡れたところへ導こうとした。しかしーー。 「?」  天海さんの先端が秘部に当たるところで、身体が固まってしまう。  嫌だ。挿れて欲しくない……。  反射的に天海さんの身体を押してしまった。 「岸本くん?」  こちらを気遣うような天海さんの視線が辛い。 「泣いているのかい?」 「え?」  俺は無意識に涙を流していたらしい。止めどなく溢れるそれは、シーツに染みを作っていく。 「す、すいませんっ俺」 「無理しなくて良いよ。今日はお酒も飲みすぎたし、このまま寝ようか」  嫌悪感など一切見せずに天海さんがベッドに寝転ぶ。俺と少し距離を置いて横になる優しさに胸が痛む。  俺は一体どうしてしまったのだろう。  その夜は寝付きが悪かった。隣ですーすーと吐息を立てる天海さんを見ながら、ゆっくりとまぶたを閉じた。

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