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77 部長って格好いいな(岸本side)

「部長。おはようございます」 「ああ、おはよう」  スーツを着て家から一歩でも外に出れば俺と部長は部下と上司の関係に戻る。部長は切り替えるのが上手で、俺はたびたび家での雰囲気のまま話しかけてしまいそうになる。しかしお互いの秘密を共有しているから、この関係が他の人にバレないようにと気を張るのが常だった。何か噂を立てられでもしたらたまったものじゃない。 「佐久間さん。おはようございます」  デスクの上でコーヒーを飲んでいた佐久間先輩に声をかけると、とびきりのスマイルで応じてくれた。 「岸本くんおはよう。あ、部長もおはようございます」  部長の姿を一目見て佐久間先輩は椅子から立ち上がった。俺は佐久間先輩の隣のデスクに荷物を置く。大きく伸びをして眠気覚ましのコーヒーを淹れに休憩室に向かうと、百田部長がテーブルに突っ伏しながらうとうととしているのが見えた。最近、新規の取引先との細かい擦り合わせで残業続きらしい。その仕事を佐久間先輩とともに行っているという。  7月半ばのうだるような夏の暑さには閉口する。朝、電車に乗って会社に向かうだけなのにワイシャツにはじっとりと汗がしみついている。制汗シートが手放せなくなっていた。額にかいた汗を拭き取りながらカップにコーヒーが溜まるのを待っていると背後に気配を感じたので振り返る。 「やぁやぁ。岸本」 「米原さん。おはようございます」  にゅっと後ろから現れた米原さんに内心びくつきながらも堂々と接する。この人、独特な雰囲気があるんだよなぁ。悪い人じゃないんだろうけど、ちょっと合いそうにない。

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