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「明星《みょうじょう》のとこの契約取れそう?」
「なんとか取れそうです」
現在部長とともに出向いている明星建材との長期の取引の件だった。この会社は良質な国産の材木を扱っているため、若者向けの集合住宅の建材の注文先になる。メリットとしては材料費が安く押さえられるので入居者の賃貸料が低くなり入居しやすくなることだが、デメリットとして鉄骨とは違う木造の家は音が響きやすいというものがある。
最近の一人暮らし向けの部屋はバス・トイレ別、温水洗浄機付きトイレ、エアコン、IHキッチン等、外観よりも内部の設備に重点が置かれることが多いため、似たような賃貸住居が全国で建てられている。だいたいが2階建てから3階建ての建物になるため、横に広くもできるし上に高くもできるのが利点だった。
「岸本行くぞ」
「はい」
朝礼を終えて軽く資料に目を通していると小鳥遊部長に名前を呼ばれた。身なりを整えて後に続く。「いってらっしゃーい」という米原の声が背中に突き刺さった。プレッシャーをかけられているようで少し不安になるがそれを振り切って前を見据える。
今日こそ契約を取ってやる。部長のサポートに全力で取り組もう。
明星建材のオフィスは有名な都内の高層ビルの7階に入っていた。人々が忙しなく行き交うエントランスホールでそわそわとしていると、部長にしゃきっとしろと睨まれる。
きっとここにいるほとんどがアルファの社員なんだろうな。
威圧的な空気を見に纏う見た目も華やかな人々が行き交っている。それを見ているとふつふつと悔しさが込み上げてきた。仕事中に雑念は不要とばかりに頭を振る。そうしていると、「何してるんだおまえ」と言わんばかりの目で部長に見つめられた。苦笑いをしてなんとかやり過ごす。
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