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「カツカレー定食でお願いします」  今日の朝から昼はカレーと決めていた。スパイスの効いたカレーの匂いに腹がぎゅるぎゅると鳴る。食堂のおばちゃんからトレイを受け取ると食堂を見渡して空いている席を探す。今日はどこのスペースも混み合っていてなかなか空いている場所がない。仕方ない。誰かが席を立つのを待つしかないか。配膳台の前で立ち尽くしていると「岸本」と声をかけられた。 「はい」  振り返らなくてもわかる。部長の声だった。部長の声は低くて聞き取りやすい。 「佐久間が食い終わったから席が空く。少し待ってろ」  佐久間さんは家からお手製のお弁当を持ってきているらしく、昼食の時間は1番先に食べ終えるのだという。席を空けてくれた佐久間さんにお礼を言って部長の隣に座る。今にも触れられる距離なのにどこか遠くに感じるのはここがオフィスだからだろうか。家の中でならもっとすぐ近くにいられるのに。そんなふうに思っていると「食わないのか」と急かしてくる。急いでスプーンを持って「いただきます」と呟いた。  ちなみに部長が食べているのは蕎麦だ。蕎麦に海老の天ぷらが乗っている。味わうというよりかきこむように食べている姿を見てもっとゆっくり食べましょうよと言ってしまいそうになる。家でならそう言っていた。しかしここはオフィスで2人きりじゃない。2人で暮らしているなんてことを知られたらどんな噂を流されるかわからない。だから部長はあえて俺と距離をとっている。そのおかげで俺も近づきすぎないようになった。

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