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「ただいま」  部長が開いてくれたドアの隙間からするりと玄関に入り込む。外の空気と違って少し涼しいが、冷房をかけなければすぐに熱中症に陥ってしまうだろう。俺はリビングのエアコンをつけて手を洗いに向かう。冷蔵庫から取り出した烏龍茶を飲みながら午後のニュースを眺めていた。するといつもはすぐにシャワーを浴びる小鳥遊部長がソファの隣に腰掛けてきた。強い視線を感じてテレビを見ることもままならない。たまりかねてこちらから聞くことにした。 「部長。どうかしましたか? 会社でもずっと俺のこと見てーー」  むにゅっと頬を掴まれる。そこから先は口が動かなかった。  しげしげと顔を観察されている。今日の部長はどこかおかしい。熱でもあるのだろうかと思っておでこをコツンと合わせると、目の瞳孔が開いた。部長はぱっと手を離す。どうやら熱はないらしい。 「部長。なんか今日変ですよ」 「大仕事をして疲れが溜まっているだけだ」  ピコーンとある考えが頭に浮かぶ。俺はスーツのまま小鳥遊部長の膝の上に乗っかった。首の後ろに手を回して上から部長を見下ろす。気だるそうな瞳と目が合った。 「何をしてる」 「部長お疲れでしょう? 俺が癒してあげようかなって」  そろそろと片手を部長のベルトに近づける。そのままするりと抜き出した。かちゃかちゃと金属が擦れる音がする。その音が生々しい。 「なんだ」  このむっつりスケベめ。本当は何されるかわかってるくせに。にやにやと笑う部長の顔を歪めたい一心で部長の足の間に頭を埋める。スラックスのジッパーを下ろして、下着の上から鼻をすりすりと擦り付けた。汗で蒸れた下着から雄の匂いがむわっと広がる。それを臭いとは思わなかった。むしろもっと嗅ぎたいくらいだ。

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