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 むふふっと笑いながらシャワーを浴びる。部長のあんな反応初めて見た。なんか可愛いかも。自分より歳上の男性に可愛いだなんて思ったこともなかった。しかし、部長だけは特別だ。いつもクールで何事にも動じないからこそ意外な一面を見るとギャップに萌えてしまうのだろう。体を洗いながら鼻歌なんかを歌ってみる。今日はすこぶる機嫌が良かった。夏季研修も部長と同室だし、今日は意外な一面も見れた。  だから忘れてしまっていたのだと思う。不定期にやってくる発情期という悪夢を。  夏季研修の当日、駅前で集合となっていたのでその駅にある銅像の前でみんなを待つ。先についているのは責任者の百田先輩と小鳥遊部長、佐久間先輩と俺の4人だけだった。集合時間より30分も前にやってきてしまったからか駅前の人は少ない。米原先輩は予定があって来られなくなったと連絡が入っている。それを聞いて俺は内心ほっとしてしまった。ちょっと苦手なんだよなあの人……。  全員が集合して宿舎に向かうバスに乗り込む。明日は朝食後またバスに乗って駅で解散と聞いている。 「うわっすげー」  佐久間先輩がおおーっと言葉を漏らす。あたり一面原っぱで無駄な草木は1本も生えていない。ここなら楽しくピクニックもできそうだ。少し小高い場所に宿舎があるせいか空気や風が少しひんやりとしている。じめじめとしていないカラッとした暑さに慣れていないからかすごく過ごしやすく感じる。  夕飯の時間まで各自で活動することになった。近くの山にハイキングする班もあれば、近くの畑に行って農作物の収穫体験をする班もある。俺は夕食の準備のために駅前のスーパーで買ってきた食品をさっそく開封していた。ほかにも数人の社員とともに準備に取り掛かる。特にみんな行きたい場所はなく一緒におしゃべりしながら料理をしたかったようで食事の話題で意気投合した。

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