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「は……い……」  掠れた声で返事をするとすぐにミネラルウォーターを持ってきてくれた。 「酒を飲んだんだな」  こくこくと頷くと頭上から静かなため息が落ちてきた。怒られると思って身をすくめる。すると降ってきたのはあまりにも優しい声だった。 「無理はするなと言っておけばよかったな。悪い。俺がもっと言い聞かせておくべきだった」  そう言ってキャップを開けることすらできない俺の手からペットボトルを取り上げる。それを口に含むと俺の唇に優しく口をつけた。  なんて甘い水なんだろう。  開いた口から染み渡る水のあたたかさに心が震える。不意にぽろぽろと涙が溢れてきた。こんな自分が情けなくて悔しくてもう何度も泣いてきたのに涙が枯れることはない。  俺のフェロモンがだだ漏れで辛いはずなのに、今にも襲いたいはずなのに小鳥遊部長は強靭な理性でそれを耐えている。何食わぬ顔で俺のことを看病してくれている。それが嬉しくて申し訳なくてさらに泣けてくる。先程ポケットの中の薬は取られてしまったから自力でおさめるしかない。ゆっくりと足の間に手を入れる。見られていようと関係なかった。本能が理性を追い越していく。 「ふ……っう……ん」  女のような高い声をあげて俺は感じた。先走りの溢れたそこに指を這わせる。悲鳴をあげてしまうほど気持ちがいい。どんな顔で見られているんだろう。怖くて小鳥遊部長を見上げることができない。こんな痴態を晒すのもほんとうはすごく怖いし嫌だ。でも止められない。

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