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玄関のドアを静かに開ける。時刻は午前1時。さすがに岸本も眠っている頃だろうと思って冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してがぶがぶと飲み干した。空きっ腹に酒をおさめたせいか、ひどく腹が減る。冷蔵庫の中を見渡していると、メモの載せられたタッパーがあることに気づく。ライトの下で確認するとこんな文言が残されていた。
『今日の晩飯の残りです。食べてください』
中を開くと鮭のムニエルが入っていた。ハーブの香りを感じながらレンジに入れる。程なくしてチンと高い音が鳴る。冷凍されていたおにぎりを解凍し静かなダイニングテーブルでがっつく。この仕事に就いて以来、早飯をするのが癖になってしまっていた。
「う……」
空腹はおさまったが頭痛は治らない。こめかみをさすりながらソファに横になる。今日はもうここでいい。このまま寝てしまおう。そう思った瞬間、ぱっとリビングの電気がついた。あまりの眩しさに目を瞑る。
「小鳥遊部長……」
眠たげな目を擦りながら岸本がやってくる。
なんだ。主人の帰りを待っていてくれたとでもいうのか。
そう思うと笑みが込み上げてくる。乾いた声を上げて小鳥遊はソファから身を起こす。スーツを脱ぎ捨てた。ネクタイを緩め深く深呼吸をする。
「酒臭いですよ。珍しいですね部長がこんなに飲んでくるなんて」
寝起きなのか目が薄ぼんやりとしか開いていない岸本を見て軽く微笑んでやる。すると驚いたように目を丸めた姿が純粋に可愛らしくて、気づけば岸本の前に立ち尽くしていた。
「な、なんですか」
あー。焦った顔もいいんだよなこいつ。
じりじりと壁まで追い詰めて囲うように両腕で壁をつくった。岸本は耳まで真っ赤にさせて俯く。
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