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女性じゃないのは珍しいなと思っていると、ややうわずった声を出して男が応じる。
「スバルホームズの方ですね。こちらへ」
男が立つと小鳥遊の頭ひとつ背が低いのがわかった。まだ案内に慣れていないのかひとつひとつの動作がぎこちない。エレベーターに通され無言で乗り込む。ここの受付はオメガの社員のようだ。緊張した面持ちで階数を表示する電光板を見つめている。
「こちらのお部屋です。ただいま社長をお呼びしますので少々お待ちください」
通された部屋はパーテーションで区切られた部屋のようだった。白いデスクと薄緑色のチェアが置いてある。やけに狭い部屋だなと思いながら窓の方を見た。最上階ともなればかなり地上とは距離がある。岸本は硬い表情で俯いている。かなり緊張していると見えた。
そのときガチャとドアノブが回る音がして小鳥遊と岸本は音のした方向を見やる。その瞬間、2人の体内にぶわっと火の粉が上がるような熱を感じた。
「羽山ドアを閉めろ」
艶のいい黒髪をオールバックにした体躯のいい男が後ろをついてきた小柄な男に命じる。小柄な男は胸を押さえながらなんとかドアを閉めた。4人の間に緊張が走る。
おもむろに岸本が声を上げた。
「うっ……あ」
「岸本っ」
熱に浮かされたような瞳。汗ばんだ額。この表情は何度も見てきた。発情期だ。小鳥遊は自身の激しい心音を聞きながら岸本のポケットから抑制剤を取り出す。そしてそれを摘んで岸本の口に入れた。持っていたペットボトルの水を口に流し込む。その間も小鳥遊の胸の鼓動は止まらない。
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