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「お世話になっております」
俺が深々と頭を下げると、「こちらこそ」という柔らかい声が部屋に広がった。
社長室で出迎えたのは天海自らだった。傍には綿貫の姿もある。
会議を終えると、待ってましたと言わんばかりに綿貫が俺に声をかけてくる。その間、天海と岸本は仲睦まじそうに話をしていた。それを見て苛つき、俺は綿貫の話を適当に流していた。
天海は運命の番に出会えたことがよほど嬉しいのか、馴れ馴れしく岸本の肩に手を置いたりする。2人の距離が近いことが気に障り、俺はまとわりつく綿貫をあからさまに避けた。すると綿貫は目に見えて萎れる。それを心配した天海に俺が心配されるという流れになり、部下の前で恥をかかされたと感じ余計に苛ついてしまう。
「今度、皆さんで食事でもどうですか?」
人のいい笑顔を見せて天海が言う。白く磨かれた綺麗な歯が口元から覗いた。綿貫も手を合わせて賛成する。
意外だったのは岸本が乗り気だったことだ。プライベートの連絡先を交換して、天海に擦り寄っていく。綿貫はまだめげていないのか「小鳥遊さん、小鳥遊さんと」しつこく絡んでくる。
何を苛ついているんだ。俺は。これは俺が望んだことだろう? 岸本には天海の方が似合う。2人はお似合いの番だ。
「では、楽しみにしています」
また連絡しますね、と言って天海は微笑んだ。笑うと目尻に皺ができ、より温厚そうな顔になる。綿貫もにこにこと笑いながら俺を見送る。岸本は天海のことをエレベーターのドアが閉まるまでじっと見つめていた。
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