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心待ちにしていた相手が早足でこちらへ向かってくるのを見て、天海の心は踊った。スマホで来週の仕事の予定を確認していたのをやめて、やや息の上がっている相手を見下ろす。
「岸本くん」
「天海さん。すみません。電車が遅延してしまっていて……」
社会人として情けないです、と謝罪する彼を安心させるためにゆっくりと微笑む。
「大丈夫さ。さぁ、店に入ろう」
「わかりました」
天海は岸本をエスコートして店内に入る。貸切とあってシェフやウェイターが全員出迎えてくれる。岸本はその光景に驚きながら天海の後ろを歩いた。
街並みが一望できる席に通されると、ウェイターが早速やってきてメニューを紹介し出した。岸本は慣れない店の雰囲気に気圧されてしまった。
「俺が頼んだのと同じやつにすればいい」
慣れたふうに注文する天海を見ていると、ん? と首を傾げられた。岸本は小さく息を吐く。
「恥ずかしながらこういう店に入ったことがないので、どうしたらいいかわかりません」
すると天海は品のいい笑い方をする。
「これから慣れて行けばいい。俺がいい店を紹介するよ」
愛おしそうな瞳で見つめられ、岸本はどきりとする。本気で言っている。その目は冗談を言っている目ではなかった。
ほどなくして料理が運ばれてきて、岸本はごくりと唾を飲み込んだ。料理好きの岸本が、名前だけは聞いたことがあるフルコースの品名。どんなレシピなんだろうと予想しながら口にする。柔らかなステーキが口の中でほろほろに溶けた。たくさん口に入れたいのを我慢して、小さな口で食べていると天海に笑われた。
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