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「わかった。じゃあ、戸建てにしよう。今度、リブハウスのオープンハウスを紹介するよ」
現実離れした言葉に狼狽えてしまう。岸本はおずおずと疑問を口にした。
「天海さんは運命の番というものを信じているんですか?」
「もちろん。ずっと探していた」
岸本は唇を噛む。自分を心から欲してくれる人がいる。しかもリブハウスの社長という肩書き。地位も名誉も手に入れられる。オメガの綿貫でさえ秘書に上り詰めている。俺もリブハウスに転職したら、きっと上の地位まで登れる。スバルホームズでは叶わない夢が、今現実となって岸本の目の前にある。
「岸本くんは信じていないのかい?」
「あまり信じていませんでした。でも、天海さんとならきっと……」
そこから先は言葉にできなかった。ふと、別の人物の顔が頭に浮かんでしまったからだ。岸本は首を横に振って残像をかき消す。あれは一夜の過ちが重なり合っただけだ。ビジネス番なんてものの効力もなかったし、今なら天海さんと番になれるはずだ。
天海は岸本の答えをじっと待つ。紳士な彼の人柄が直に伝わってくる。この人はきっと俺に優しくしてくれる。
「よろしくお願いします」
何に対して、だろう。恋人になることか、番になることか、あるいは家族になることか。
天海は嬉しそうに口端を上げる。
「また食事をしよう」
わかりました、と答えて岸本も笑顔になる。大丈夫。この人とならきっと明るい未来が描ける。そう信じて、差し出された手をとった。
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