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 翌日の朝礼で岸本が土産の温泉饅頭を部署の皆に配っているのを見て、小鳥遊は舌打ちしそうになった。  なぜこんなにも苛つくのか。理由は明白だ。よかれと思って別れを切り出した自分の方が、岸本に依存していた。それが答えだった。  自分で淹れたコーヒーに口をつける。生ぬるい液体が喉に染み渡る。  岸本と番を解消して2ヶ月半が経つ。平日は仕事で忙しくしていられるが、休日はそうではない。自分のスペースに空いた穴を埋めるので必死だった。以前よりもパーソナルジムに通う回数が増えて筋肉もついた。だが、満たされない。  夕食は作るのすら煩わしく、デリバリーを頼むのが常になってしまった。身体に良くないとわかっていても、つい油物を口にしてしまう。それでもまだ満たされない。それほどまでに岸本の存在は大きかった。  最終手段として、自分の運命の番の可能性があるとされる綿貫と食事に行った。しかし、会話は弾まず綿貫に性的に惹かれることもない。奢った飯代だけでも腹が立ってくる。  はたして自分はこんなにも感情的な人間だっただろうか。  岸本と過ごすうちに、ひた隠しにしてきた感情が顔を見せたのだ。岸本の前だけは、部長の肩書も、種無しのアルファというレッテルもいらなかった。ただ、小鳥遊という男だけを見せることができていた。  2つ隣のデスクに岸本が座っている。手を伸ばせばすぐに届きそうな距離なのに、ほんの数メートルが遠く感じられた。

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