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やや落ち着きを取り戻したのか、岸本に名前を呼ばれて我に帰る。
俺は何をしているんだ。自ら遠ざけた相手を甲斐甲斐しく助けるなんておかしいだろう。
小鳥遊は岸本と少し距離を取る。ゆっくりと岸本が立ち上がった。目には力が戻り、いつもの様子に戻っていた。
「少し、歩きませんか」
岸本の提案に声が出せずついていくことにした。岸本がそんなことを言うなんて信じられない気持ちで後ろ姿を見る。ここからでは表情が見えない。
冬の冷たい空気が辺りに満ちている。小鳥遊と岸本の吐く息が白く染まった。
お互い何も話さない無言の時間が流れる。それを心地良いと思うのが、小鳥遊には不思議に思えてならなかった。この空気が嫌いではない。むしろ落ち着くような。満たされるような。
そこまで考えて、小鳥遊は頭を振った。
こいつには天海がいる。俺たちは終わったんだ。
自分に言い聞かせていると、何故かまた胸が苦しくなった。
「小鳥遊部長」
唐突に、岸本が喋った。
「最近様子がおかしいですよね。顔もやつれて見えます。ちゃんとご飯食べてますか?」
「……あまり良い食事を取っているとは言えないな」
街頭に照らされた2人の影が近くなる。岸本が歩みを遅くしたのだ。
「仕事中も、心ここにあらずですよね」
「お前には関係ないだろう」
いや、大いに関係ある。原因はお前だ。
しかし小鳥遊はそれを少しも見せずに強がる。
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