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151 愛妻弁当? 愛憎弁当?
黄色、茶色、赤、緑、オレンジ。小鳥遊の目に入ってきたのは、色彩豊かな野菜や果物たち。楕円形の木製の弁当箱としばし睨めっこをしていると、隣のデスクで栄養ドリンクを飲んでいた佐久間がひょいと顔を覗かせる。
「部長の弁当すごいですね……栄養満点そう。それに比べたら俺なんか……俺なんか市販のよく分からない液体飲んでるんですよ」
ふりふり、と佐久間は茶色の小瓶の底に溜まった液体を振る。小鳥遊は内心少し焦っていたが、平静を保ってそれに答える。
「……たまには自炊もしないとなと思って、昨夜から下準備をしてきた。朝飯用だったが、食い切らなかったから持ってきた」
佐久間は「はぁ」と気の抜けた返事をする。佐久間の内心としては(言い訳すんなよ〜どうせ彼女の愛妻弁当だろ〜小鳥遊さんも照れ屋だな〜)であった。佐久間はこの弁当を作った人物に心当たりなど全くない。しかしーー。
佐久間の斜め向かいのデスクに座り、書類をトントンと整理している岸本はけろりとした顔だ。この弁当を作ったのは岸本で、自分はお揃いの弁当を持っていくのが恥ずかしいからと、プロテインで昼食を済ませるという。だから、小鳥遊は少し肩身がせまい。たしかに、野郎同士で中身が一緒の弁当を食べているところを見られれば、冷やかされるか見て見ぬふりをされるかの2択だろう。
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