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 岸本の料理の腕は確かだ。ものの20分与えれば、岸本は肉じゃがやチャーシュー、トマトパスタなど何でも作ってしまう。最近は時短でできる見栄えのいい弁当にハマっているらしく、今日もその方法で作ったものばかりだ。けれど、味は確かだし見た目も悪くない。  小鳥遊はおずおずと、黄金色をしている卵焼きを1口、口に入れた。卵の柔らかさが舌に溶け込む。ついで、甘さが。小鳥遊の健康を案じて、糖類0の砂糖で作ったらしい。少し匂いが独特だ。小鳥遊の瞼の裏には、朝早いうちからせっせと台所に向き合う岸本の姿があった。昨晩もだいぶ遅くまで寝かしてやれなかったというのに、早起きをして弁当作りをしてくれる優しさに胸が詰まる思いだった。入社したての頃は、まだ生意気な大卒という印象だったがだいぶ丸くなったものだ。まぁ、俺も昔はそうだったか。そんな気持ちで、ブロッコリーを箸で掴む。煮崩れしていない分、弾力があって食欲が進む。弁当の8割型を食べ終わったところで、ふうと一息つく。なんだか一気に食べてしまうのはもったいない気がした。

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