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昼食のデザートに、隅にちょこんと置かれていたミカンに口をつける。甘酸っぱさがちょうどいい。愛媛産のいいミカンがスーパーで5個で298円という破格の値段で売っていたのだと、昨夜岸本が言っていたような。岸本の趣味は近所のスーパー巡りで、1日2件は足を運ぶ。その2つの店舗で安い方、新鮮な方を買って帰るのだという。小鳥遊も残業がないときは一緒にくっついて行くのだが、商品を見分ける岸本の目といったら真剣そのもので声をかけるのも躊躇われるくらいだ。
「ごちそうさまでした」
小声で両手を合わせる。ふと、誰かの視線を感じて顔を上げるとプロテインをごくごくと飲んでいる岸本と目が合った。その顔には、「どうだ。うまいだろ」と、書いてあるような気がした。それを小鳥遊はつんと澄まして無視を決め込む。その反応が予想外だったのか、小鳥遊が少しでも微笑むとでも思っていたのか。岸本は飲んでいたプロテインをぶっと吹きこぼしてしまった。佐久間と米原が「あちゃー」と言って、すぐさま雑巾を持ってくる。岸本のワイシャツにはプロテインがびしゃりとかかってしまっている。
小鳥遊はそれをやれやれと思って目を伏せた。
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