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「愛憎弁当って言うらしいですよ」
「愛憎? 俺のこと嫌いなのか?」
自分でも驚くほどしょんぼりした声が出た。すると、岸本は慌てたように目を泳がす。やりすぎた、と顔に出ている。
「ち、違います。小鳥遊さんの反応が見たくて作っただけです。だから、嫌いじゃないですよ」
「でも、そのときお前いなかっただろ」
「……つくづくお馬鹿さんですね。俺が直に見るわけないでしょう。ちゃんと仕掛けがありますから」
岸本が指さした方向にあったのは、床に転がった黒い小さな機械だった。
「今って便利ですよねー。ああいうのも手軽に購入出来る時代ですから」
「あれは、なんだ……」
おそるおそる聞いてみると、岸本は。
「超小型カメラですよ。弁当箱に入れてたのは別ですけど、今はあれで動画を撮ってます」
「なっ」
撮られているっていうのか? この姿を?
小鳥遊はわなわなと震え出す。こんな、こんな勝手に……。
「あ、怒りました? すみません。でもそういう反応も面白いから」
ちゅ、と岸本は小鳥遊の手の甲に口付ける。触れた唇が熱い。
「いつも同じやり方だと飽きるでしょう? だから少し趣向を変えるのもいいと思って。嫌なら、片付けますけど」
「どうします?」とけろりとした顔の岸本。上等じゃないか。そこまで言うなら、撮らせてやろう。お前が泣いても泣いてもやめないぐらいにな。と、内心闘争心が湧き出てきた。
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