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「あ、勃ってきた」  先程から岸本に馬乗りにされて早5分。さわさわと下半身をまさぐられて、そこは兆していた。断じて言う。撮られているからではない、と。そう信じたい。というか……本当に重いな。筋肉付けすぎだろう。前は俺の方がガタイが良かったのに。心の中で舌打ちをすると、岸本が嬉しそうに顔をのぞきこんできた。 「愛憎弁当のことですけど……美味かったですか?」 「美味いも何もないだろう。白米だけなんだから」 「でも、俺の愛情? 愛憎は込めてましたから」 「愛憎ってな……俺には心当たりがないんだが」  はぁ、と大型犬が大きなため息をひとつ。その顔は呆れている。 「一昨日、何の日か覚えてますか?」 「……いや、なんだ。お前の誕生日は8月13日だから、まだ先だろう」 「……そこは覚えているんですね。ちょっと嬉しいんですけど……。一昨日も俺たちにとって重要な日でしょう」 「すまん。わからない……」  岸本はずてっと床に倒れ込んだ。古い芝居だなぁとぼんやりと見つめていると、岸本は俺の腕を唐突に噛んだ。 「痛っ。なにする」  がぶがぶと腕に噛み付く(もちろん甘噛み)岸本を手で追い払うと、今度は迷子の犬のように瞳をうるませて言う。 「一昨日は付き合って1年記念日だったでしょう?」 「あ」  俺には記念日には、かなり弱い方だ。以前の恋人、守の誕生日すら覚えられなかった頃は怒りで血迷った守にぬいぐるみを投げつけられたこともある。だから、そんな失敗をしないようにと俺は誕生日だけは覚えるようにしていたんだが。まだまだだな。

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