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第2話 ラブホテル(1)
なりゆきでその手のホテルに入るのは初めてだった。
「大丈夫?」
ドアが閉まり、室内に二人きりになると、急に緊張し出した颯太に藍沢が尋ねた。
「え?」
「あ、いや。負担じゃないですか? って意味です」
藍沢はしごく静かで、草食動物のようだ。淡々としていて、かえって颯太の緊張も、ほぐれる気がした。
「大丈夫。おれの企画だし、これぐらい女子もやってるだろうから」
プロモーション部の朝田に、打ち合わせの時に「この前、新商品のモニターに立候補したのって、企画開発部の女子社員でしたよね?」と、極めてさりげなくではあったが、「もし誰もいなかったら鍵咲さんの実体験でいいので」と促されたのを思い出した。
それに、社内の男女比率が男性四・女性六で、女性が多いことも手伝って、会議などで使用感や不満点を普通に話し合っているのを何度も目の当たりにしていた。颯太は女性に対して興味が抱けないせいもあり、ずっとそんなものなのか、程度の関心の持ち方だったが、いざ当事者になってみると、彼女たちの肝の座り方に圧倒された。
同じようにはできなくても、少なくとも見習うことはできる。
「おれ、鍵咲さんのそういうところ、好きですよ」
「えっ、そう?」
「一生懸命で曲がってない。すごくいいと思います」
お世辞にしては褒めすぎだと思ったが、エースに言われて悪い気はしなかった。
藍沢と一緒にコートとジャケットを脱ぐと、颯太は紙袋の中身をベッドサイドに並べ、今までの経緯をひととおり説明した。まずは自分のいるレベル──最底辺にいるだろうことを知ってもらわないことには、アドバイスのしようもないだろうと考えてのことだ。
「情けないけど、実は入らなかったんだ……」
ポイントがイマイチわからない、ずぶの素人なのだと伝えた颯太に、藍沢は笑うでもなく「教えます」と手短に頷いた。
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