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第6話 ディルド(1)
一週間後の金曜日の夜、颯太は藍沢とサシで、酒を飲みながら刺身を食べた。
「鍵咲さん。あれから、どうです?」
藍沢は健啖家らしく、また酒豪らしく、ジョッキのビールを比較的早いペースで片付けると、日本酒とハマチを旨そうに口に放り込んだ。
「教えてもらったとおりやってみたら、一番小さいサイズはクリアできるようになってきたよ。けど正直、まだぎこちなくて。入れる時と出す時、ちょっと怖い」
冗談めかして笑うと、藍沢は他の商品について尋ねた。
「次は、ディルドでしたっけ?」
「うん」
一般に男性向けの市場は、オナホールやエネマグラが席巻しているが、株式会社OTORIの企画は女性向けの商品からの技術転用が容易な、アナルプラグやディルド、バイブ付きアナルパールなどを中心に据えたラインナップにする予定だった。最終的には、性差を超えた集客を見込める商品にしたい、との思いがある。
「付き合いますので、食べたら出ましょう。持ってきてますよね? 時間、大丈夫ですか?」
「うん。でも……いいの?」
「元々、そのつもりでしたから」
徳利を振って最後の一滴を猪口に流し込むと、追加注文を頼もうとした颯太を「これ以上は酔うんで」と押しとどめた。
部署の違う藍沢を巻き込んでいる以上、颯太はレポを、第三者が試した結果を聞き取っている、という形で書いていた。営業トップの藍沢を好機の目から守るための苦肉の策だったが、会社で込み入った話ができないため、週に二回ほど打ち合わせのために一緒に食事をするようになった。
もしも藍沢が、これで終わりだと決めたなら、颯太もあとはひとりでやるつもりだったが、意外にも藍沢は乗り気のようだった。ようだった、というのは、藍沢は颯太といる時、何を考えているのかよくわからない仏頂面をしていることが多いためだ。
(でも、藍沢くんが事務的で、助かってる面がかなりある)
本来なら、顔を合わせるのさえ恥ずかしい姿を見せているのだ。藍沢が、ベッドの上の雰囲気を外に持ち出さないでいてくれるのは、非常に好印象だった。
そして、今宵も颯太は藍沢に、ベッドの上でくしゃくしゃにされている。
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