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第10話 自慰(1)(*)

 藍沢に支えられ、バスルームまでたどり着くと、「先に洗っててください」と言われて放り出された。  しんとなった中、水音が虚しく響き渡り、颯太は気を取り直してがしがしと全身を洗い上げた。  鏡を見ると、身体中に赤い跡が散っていた。 (こんな、に、されたんだ)  明るい場所で、颯太は初めて自分の痴態を思い出していた。玩具と指と舌以外では、触れられていない。颯太の負担にならないように考えてくれているのに、物足りない、と感じるのは、どこかで、もっと先を望んでいるせいだろうか。 (おれ、藍沢くんに……抱かれたい、って思ってる……?)  慌てて首を振ったが、芯を残した性器は欲望に忠実だった。藍沢の手を思い出して、そっと中心に指を這わせると、みるみるうちに角度を取り戻す。 (どうしよう、おれ……っ) 「ぁ……」  藍沢のやり方を真似てみる。すると、みるみる蜜が鈴口から溢れ出した。 「ん、ぅん……っ」  ドア一枚を隔てて、すぐそこに藍沢がいる。その事実だけで、いつもよりずっと早く颯太は昂ってしまう。 「は……ぁ、……ぁぃ、ざ、わ……く……っ」 (さっき、したばっかり、なのに……っ)  名前を呼ぶと、耳朶に吹き込まれた声の記憶が蘇る。  あと少しで達する、と思った時だった。  ガタリと音がして、バスルームに藍沢が入ってきたのがわかった。 「!」 「鍵咲さん、大丈夫ですか?」  静かな藍沢の声に、颯太は慌てて前を隠して振り向いた。 「あ、う、うん……!」 「ここに着替え、置きますんで」 「わかった」 「……」  藍沢は、颯太の様子がおかしいのに気づいたらしく、無言でバスルームに足を踏み入れてきた。 「あ、あの、ごめん、おれ、ちょっと……」  言いながら前を隠し後ずさる颯太を、藍沢は壁のタイル際に追い詰めた。鏡に背中がくっつくと、前を隠している颯太の両手首を、そっと持ち上げる。 「……こんなにして」  じっと屹立を目にされて、視線に熱があるなら、灼かれてしまいそうになる。

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