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第10話 自慰(2)(*)

「ちが、っ……あの、これは……っ」  うまい言い訳が見つからないまま、顔を染めて俯いた颯太の額に、藍沢はそっと額をくっつけた。 「ぬ、濡れる、から……」 「かまいません」 「おれ、変だ、から……っ」 「変じゃないですよ」  颯太の拒絶の言葉をことごとく否定した藍沢は、掴んでいた両手首をひと纏めに左手で縛してしまうと、空いた右手で上を向く颯太の芯を包んだ。 「ゃ……!」  腰を引くことが、鏡に邪魔されてできない。 「こんなに勃たせて。溜めるのは良くないです」  そろりと親指で撫でられた鈴口から、透明な糸が滴った。 「あ、藍沢くん、っおれ、自分で……」 「何、言ってるんですか」  明るい場所で柔らかく握られ、颯太は上半身が真っ赤に染まるのを感じた。 「待っ……それ、だめ……っ」 「だめ、じゃないでしょ。暴れるとシャツが濡れちゃいます。俺のことなら、玩具と同等ぐらいに考えてくれていいので」 「んな、っ、失礼、な、こと……っ」  意志に反して抵抗できずに、快楽を求めてしまう颯太を、藍沢は否定もせず、ただ優しく包んだ。  ぬちぬちと扱かれるたびに立つ水音が、次第に切羽詰まったものになってゆく。がくがくと太腿が震え出し、立っているのが難しくなりつつある颯太を、藍沢はゆっくり追い詰めた。 「んっ、ぁっ、ぁ……っ、だめ、だ、だ、め……っ、っあい、あいざ、わく……、いっ、いく……っんん、っ……!」  一度、他人の手による絶頂を体験してしまった颯太の身体は、躊躇うことなく達してしまう。藍沢の手に白濁を吐いた颯太の膝が、がくりと折れ、藍沢に抱き支えられる。 「……よくできました」  言われた颯太は、思わず藍沢を睨んだ。 「きみ……意外と意地悪だよな」 「すみません。鍵咲さんが可愛すぎて」  悪びれる様子もなく素直に謝られると、拗ねる気持ちがほどけてゆく。 「なんだよ、それ」  藍沢と目を合わせると、捨てられた子犬が拾われるのを確信する眼差しで見返され、恥ずかしくなる。  可愛いなんて、男に対して使う形容詞じゃない。  けれど、藍沢に言われると、しっくりきてしまうから困る。 「本心ですから」  藍沢の言葉を聞き流した颯太は、「もう、ほんとにきみって……変だよ」とへにょっと笑った。

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