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第11話 初恋(1)

 キーボードを叩いていると、不意に颯太を疼きが襲った。 (あれ……?)  家で、藍沢のチェック待ちのレポを作成している時だった。  颯太の住むマンションは2LDKで、書斎兼寝室として使っている部屋の机の横の壁には、特撮ヒーローの大きなポスターが飾ってある。実家から引っ越す際に、どうしても捨てられなくて持ってきたものだ。  小学生の頃に流行した戦隊ものの、颯太はブルーが大好きだった。だから筆箱も鉛筆も消しゴムもランドセルも、青一色で統一していた。  だが、中学に入り、数人の友だちを家に招いた時、それは起こった。 『これピンクがエロいよな』 『わかる。俺もピンク派』 『イエローかピンクかで揉めたよな』 『イエローは決めポーズがエロい。あと唇』 『颯太は?』 『え?』  ブルーが好きだとは、とても言えない雰囲気だった。戦隊ものの女性登場人物たちを友だちがそういう目で見ていることが衝撃で、猥談をはじめた彼らが、宇宙人に見えた。  一人取り残された颯太は、そして思い至った。いつの間にか、自分が普通という枠から大きく外れていることに。同い年のクラスメイトたちが女性の身体に興味を示すようになる時期、颯太はひたすらブルーのスレンダーで硬い筋肉を想っていた。  中学生生活も半ばを過ぎ、性教育の授業で、大多数のクラスメイトたちが異性とのセックスに目の色を変えてのめり込むのを見ても、颯太はそれに同調できなかった。  そして、できない自分を劣っているのだと決めて、責めた。  それから颯太は何かに惹かれても、周囲に合わせて意見を曲げることを覚えた。自分には他の人と違うところがある。それがいつまで経っても治らないことに危機感を覚え、颯太は性欲そのものに蓋をするようになった。  それが、最近、少し変なのだ。  長じて、自分が同性愛者なのだということを自覚した颯太は、性衝動を畏れた。  なのに、藍沢に囁かれた言葉を思い出すと、颯太は少しふわっとするのだ。 『可愛すぎて』 『本心ですから』  ひとりで思い出して、ひとりで処理するなんて、馬鹿馬鹿しいとすら思っていたのに、藍沢の長く節のある指を思い出すだけで、鼓動が走り出し、制御できない。  それを、制御しようとも思わなくなっていた。

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