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第11話 初恋(2)

「ん……」  藍沢の言葉に、颯太は救われつつある。藍沢は、颯太を否定しようとせず、真摯なひたむきさで対峙してくれる。身体の疼きを意識するようになったのは、ちょうどそれがわかった頃からだった。  今までどうやって散らしてきたのか思い出せないほどに、それは切実な衝動となり、颯太を蝕む。それが藍沢に関連すると思うと、少し愛おしい気すらする。  颯太は椅子の背にもたれて、眉間をこすった。藍沢の体温も、腕の長さも、正確に思い出せるのに、最後まで抱かれたことはない。 (駄目だ、こんなの……)  後輩に欲情して、発散するなんて。  せっかくありのままに颯太を受け入れてくれる人が見つかったのに、妄想の中で藍沢を汚すなんて、失礼すぎる。 『玩具と同等に考えてくれて、いいので』  藍沢の声が脳裏を過ぎる。颯太は酩酊して、兆している下肢に、そっと手を伸ばした。  スウェット越しに、そろりと先端をなぞると、もう透明な雫で鈴口が濡れている。勃起した部分は常にない強さでドクドクと脈打ち、颯太に放出を求めている。  衝動に負けたことを認めて、颯太がトイレへいこうと立ち上がった時、机の上のスマートフォンが振動した。  見ると藍沢からのメッセージで、来週、出張が入ったので付き合えない、との連絡だった。 『わかった。気をつけて』  少し考えたのちに、『帰り、待ってる』と付け加えると、藍沢からスタンプが届いた。 「は……」  スタンプにスタンプで応答しながら、颯太は少しホッとした。  藍沢との逢瀬が続くのは、玩具の予約販売のカートが開くまでの間だ。リリースが無事に終われば、この些か爛れた関係も、やがて消滅する運命にある。  なのに、颯太は藍沢に執着しはじめていた。 (戻れなくなるのが、怖い……)  このまま藍沢に溺れたら、自分を制御できなくなるかもしれなかった。それが少し怖い。時間と距離を置くことで、自分の感情を整理したかった。  これが恋なら、初恋になる。  特撮ヒーローのブルー以外、初めての恋だった。

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