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第13話 「本気で好きなんだ」(1)

 縄。  拘束。  愛撫地獄。  快楽堕ち。  それらの単語に颯太はため息をついた。  プロモーション部の朝田との打ち合わせを終え、ふわふわと浮かれていた気分はすっかり下降線をたどっていた。  まだ昼食には少し早い時間帯のカフェテリアへ向かった颯太は、気持ちを切り替えるべくカフェオレだけを注文すると、なるべく人目につきたくなくて、観葉植物がぐるりと周囲からの視線を遮ってくれる、窓際の一番奥の席についた。 (どうしよう……安請け合いしてしまった)  藍沢は、今日の午後の便で戻る予定だと聞いている。その前に、颯太がこの企画を進める気があるのかどうか、進めるなら覚悟するだけの時間が欲しかった。  眼下に見渡す摩天楼は、颯太の心の内と同様、どんより曇っていた。今頃、朝田たちが、先日、颯太が藍沢と一緒に書き上げたレポの更新をかけていることだろう。自意識過剰だとわかってはいるが、あのレポは、誰でもアクセス可能な、会社の通販サイトに特別企画として載せてあるのだ。 (……あ。藍沢くんの声だ。出張から帰ってきたのか)  颯太が椅子の背にもたれて放心していると、藍沢の声が次第に近くなり、やにわに颯太のすぐ後ろの席に座った。 (っ)  同時に藍沢と一緒にいる同僚らしき男性の声がする。 「振り向いてくれない? 下手だからじゃね?」  気づくと観葉植物の向こう側から、気の置けない会話が聞こえてくる。しまった、と思った颯太は、それとなく席を立とうとしたが、カフェテリアの利用者が少なすぎて、今、出ていったら盗み聞きがバレてしまいそうだった。  藍沢も、その同僚も、颯太の存在に気づいていない。まだ昼食目当ての第一陣がくるには数分の猶予がある。 「斎賀、お前、身も蓋もないことを……」 「だってエッチしたのにつれないんだろ? そういうことじゃねぇの? むしろそれ以外にありえる?」  深刻な様子の藍沢を揶揄うように、斎賀と呼ばれた同僚が茶化していた。颯太は、とりあえず周囲の音を遮ろうとして、ポケットに入れてあるはずのイヤホンを出そうとした。「エッチ」という言葉に思わず耳がダンボになるが、聞かなかったことにする。  今はまだ、入り口に溜まりはじめた重役たちが、緩慢にメニューを選んでいる。颯太がイヤホンを片耳に装着した時、藍沢の声が聞こえてきた。 「相性は、悪くないと思うんだが……」 「うわ。それ、よく聞く話すぎるわ。彼女に聞いてみたか? 俺ってセックス下手じゃないか? って」 「できるか、そんなこと……」  拗ねる藍沢の声など初めて聞いた。同僚相手だと、こうも感情豊かになるのか、と余計なことを考えてしまう。耳を塞ぎたかったはずなのに、思わず手が止まった。

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