30 / 70
第17話 緊縛(*)
バンザイをする形で、颯太は踵を半分あげた状態で、手首を梁に縛り付けられ、次に新しい縄で胴体を拘束された。
等間隔に縛られると、次第に気分が高揚してきて、呼吸を制限された時のような酩酊感に襲われる。
「両手、大丈夫そうかな?」
「は……い」
身体の約半分、腰から上を雁字搦めにされた。藍沢は少し離れたところから、野々原の作業をじっと視ている。
「がんばって」
耳元で野々原のテノールが言った。
しっとりと汗をかいた肌は、縄目のところどころで脈打っている。事前知識をなるべく入れてきたつもりの颯太だったが、これが俗に言う縄酔いなのか、それとも藍沢に対する怒りなのか、判断がつかなかった。
藍沢以外の人間とする拒否感からか、颯太の下半身は萎えたままだ。プレイが進んでも興奮することが可能なのか疑わしかったが、颯太ひとりの事情で貴重な機会を逃すわけにはいかなかった。
(それに、野々原先生はプロだ)
まだ序盤である。いずれ野々原のペースに乗ることができれば、その気になることも可能だろうと颯太は楽観視しようとしていた。
「OK。不快なところ、筋や筋肉が引き攣れるような感じはしますか?」
「……大丈夫、です」
颯太が答えると、緊縛は下半身に移った。野々原が藍沢に水を向ける。
「ディルドは御社のものを使用するのですよね?」
「はい」
藍沢が、颯太の持ってきた紙袋から、事前に用意されたものを取り出す。それは、二度目に颯太が藍沢とした時に使った、細身の、底にリングが付いたディルドだった。
野々原は少し考えたあとで、「藍沢さんが入れてください」と命じた。藍沢はローションとディルドを持って颯太の背後に回りこむと、「触ります」と声をかけてから、颯太の後孔をほぐしていった。
部屋は明るい。
二人だけの時のように、ものの輪郭がわかる程度に絞り込まれた照明ではなく、煌々とオレンジ色のスポットライトが、颯太の身体を照らしていた。
ぐじゅ、ぬち、と何度聞いても慣れない音をさせて、内腿がローションに濡らされてゆく。同時に後孔がひらかれ、中指が前立腺をかすめると、衝撃で何度か息を止めた。
「……っん、……」
ディルドがぬるんと颯太の中に挿入ると、根本のリングに縄を通し、野々原が固定する。
「わりと早く挿入できましたね。いつもしているからなのかな?」
野々原に、近距離から揶揄されると、否定したくても息が続かず、真実じゃないのに頬が火照った。
「ずいぶん敏感なようだけれど……まだ刺激が足りていないようですね?」
やにわに野々原に体表を撫でられた。颯太がまだ半分も勃起していないことを指摘される。
野々原は藍沢をコンクリートの壁際に呼ぶと、数ある玩具の中から、羽箒の付いた小さなワンドを選ばせ、颯太の元に戻ってきた。
「本当はペニスも緊縛するんだけれど、硬度が足りてないので、少しくすぐってみましょうか。限界がきたら「アップル」ですよ」
再び颯太に確認を取ると、野々原はワンドを支え持ち、にっこりと笑った。
「では、はじめましょうか。──愛撫地獄を」
ともだちにシェアしよう!