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第22話 バスルーム(1)

 揺蕩う感覚に押し流されまいともがき、パシャッと湯の跳ねた音で颯太は気がついた。 「あ……」  バスルームらしき場所で湯の中にいる颯太を、湯船の外からTシャツに下着姿の藍沢が、溺れないように支えてくれていた。 「大丈夫ですか……?」 「え? あ、う、うん……」  縄も玩具もきれいに取り払われ、扉の向こうからは、ゴロゴロと洗濯乾燥機の回る音がしている。緊縛の痕さえなければ、夢だったんじゃないかと思うところだ。 「ここ……どこ?」 「野々原先生がバスルームを提供してくださったんです」  藍沢は立ち上がろうとする颯太を脱衣所まで支えた。たぶん颯太が汚してしまったのだろう、ワイシャツとスラックスを脱いだ藍沢は、いつもより少し幼く見えた。 「身体、不快なところ、ないですか?」  颯太の頭にバスタオルをかけながら、藍沢が尋ねた。何度も快楽の淵に堕とされたせいで、すっかり毒気が抜けてしまった颯太は、もう藍沢を怒る気にもなれなかった。  ただ、最中にキスをされて、藍沢と対等に交わったことが心に残った。痛みも快楽も分かち合うような睦み合いに、藍沢のことを少し理解できたような、深い満足感がある。  藍沢のTシャツの裾から、黒のボクサーブリーフが見える。その前が盛り上がっているのが見え、颯太はつい、プレイルームの気持ちを引きずり、手を伸ばした。  しかし、触れる前に鋭く拒絶の声がした。 「触らなくていいです」 「あ……」  颯太の手を押しとどめた藍沢に、燻っていたはずの熱が、今度こそ冷めてゆく。 「あ、そ、そう……だよね。ごめん……」 「いえ……」  藍沢の常にない硬い声を聞いた颯太は、後悔した。あの時、あの部屋で、確かに藍沢と気持ちが通じた気がしたのは、気のせいだったのか。それとも、颯太の常ならぬ乱れように、事後に気持ちが冷めたのかもしれない。  どちらにせよ、藍沢は颯太を拒絶した。 (そう……だよな。おれと同じはずが、ないじゃないか)  藍沢には別に相手がいる。なのに、あんな醜態を晒したことを、颯太は恥じた。藍沢を巻き込んでしまったことを考えると、重い石を飲み込んだような気持ちになる。

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