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第22話 バスルーム(2)

「ご……ごめ、ん……。気持ち悪かったよな……。おれ、我慢できなくて。ほんと、ごめん。きみのこと、考えてるふりで、そうじゃなかった……」  せめて最後ぐらい、先輩らしくしたかったが、それも無理だとわかってしまうと、口惜しくなる。  藍沢は颯太の謝罪を仏頂面で聞いていたが、やがてバスタオルごと、ぎゅ、と長い腕を颯太に巻き付けてきた。 「っ……?」  まるで抱きしめられているみたいで、浮かれそうな自分が怖い。颯太が恐るおそる背中に手を回すと、藍沢が腕に力を込めてきた。 「……ひとつだけ、お願いがあります」 「な、何? 藍沢くんのお願いなら、おれ、何でも……」 「そういうところですよ」 「え……?」  少し強めの口調には、悔恨が滲んでいる気がした。藍沢は颯太を離すと、ため息をついた。 「自分を卑下するようなこと、言わないでください。俺は、あなたが自分を傷つけるようなことを言うのが、嫌です」 「あ……」 「何度も言いますけど、俺は、気持ち悪いなんて思ったこと、一度もないです」  吐き捨てるように呟くと、藍沢はドアを押し開けて出ていった。 「そ、う……」  それなら、なぜ拒むのだろう。  きっとそれは藍沢が、操を立てている相手がいるからだ。藍沢が颯太を気づかうのは、先輩に対する気配りの範疇なのかもしれない。 (でも、それでも……)  もうほとんど愛していると言ってもいいほどに、焦がれる気持ちを押し殺す。  颯太は棚の上に重ねられていたワイシャツとスラックスを着て、藍沢の出ていったドアを開けた。

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