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第1話 「よければ俺が、しましょうか?」(2)

 男性用のジョイトイは、女性用の技術を転用しやすいところから入ろう、ということで、アナルプラグ、ディルド、アナルパールなどを発売して、売れ行きを見てからオナホールや局部用の電動マッサージ器具などに品揃えを広げていく計画だったのだが、商品の動作確認をする前に、入れる段階で躓いてしまったのである。 「あの」  しばらく無言だった颯太に、藍沢が不意に切り出した。 「さっき、ちょっと美馬坂課長と話しているのを聞いてしまったんですが……、すみません。使用感に関する提案したの、実は俺なんです」 「あ、そうなんだ?」  藍沢は、颯太が振り返っても顔色ひとつ変えずに頷いた。 「女性向けのものは、カップルでの使用感が大事なんです。だから、男性向けもその線で提案させてもらったんですが……確認作業が重荷になってたら、すみません」  痛いところを突かれ、颯太はくにゃりと笑った。さすがエース。隠しておくことができないな、と尊敬しながら、颯太は自嘲するしかない。 「藍沢くんが謝ることないよ。付加価値つけて売ろうと思ってのことだろ? 実は、モニターを頼む予定だった知り合いの出張が長引いちゃってさ。でもリーダーのおれが足を引っ張るわけにもいかないし、どうしたものかと思ってたんだ……はは、情けないよな」 「相手、いないんですか?」 「あ、うん……最初一人でやると想定してたから。おれ、あんまり人脈も広くないし、さすがにジョイトイを一緒に試してくださいとは、なかなか言える人がいなくて……ごめん」  言い訳を並べながら、颯太は無表情で相槌を打つ藍沢を見て、急に自分のしたことが恥ずかしくなった。挿入らなかったのは、百歩譲って仕方ないかもしれない。だが羞恥心に負けて一人を二人だと偽り、いい加減な仕事をしようとしたのは明らかな怠慢だ。 「……お察しの通り、モニターが今、足りてなくてさ。いっそのこと、おれひとりでやってみようかと思ったんだけど、上手くいかなくて。どうしようかなと思って……」  こんなところで躓いて、せっかくの機会をいい加減に切り抜けていいのだろうか。何より初めてリーダーとして、立ち上げから関われた仕事だ。万難を排してやり遂げたいという志しが、いつの間にか言い訳だらけの甘えに置き換わってしまったのが悔しかった。  颯太にだって、仕事に対して妥協したくないという気持ちはある。それを証明するためには、まずは自分にできることを地道に探していくしかない。 「でも、ありがとう、藍沢くん。おれ、ちょっとズレてたのがわかったよ」  もう少し頑張ってみよう、と決意し前を向くと、藍沢が予想だにしなかった提案をしてきた。

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