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第6話 ディルド(3)

(藍沢くんて……)  颯太はひとり、バスルームにこもり、考える。 (同性愛者、なのかな? 違うと思ってたんだけど)  颯太には、一応、同類がわかるセンサーみたいなものがある。けれど、颯太のセンサーに、藍沢は反応しなかった。女性との噂もあった人だから、先入観からそう思うのかもしれないが、颯太の身体に全く嫌悪感を抱かない様子からは、同類とみなしても良さそうな気がするし、謎だった。  颯太はそれ以上、考え込むのを止めて、バスルームを出ると、洗った髪と身体をバスタオルで拭い、先ほどまで着ていたスラックスとシャツに着替えた。  ベッドルームに戻ると、藍沢が洗濯乾燥機を回しながら颯太を振り返り「そろそろレポにまとめましょうか」と促した。 「そうだね。色々体験できたし」  初めてアナルプラグを入れた時のレポは、なかなか好評だったとプロモーション部の朝田が言っていた。最中に藍沢がちゃんと言語化するよう促してくれたおかげで、ヒントになる言葉を事後に覚えていられたせいだ。  颯太がラップトップの電源を入れると、藍沢が鞄からメモリースティックを取り出した。 「鍵咲さん、これ、ちょっと見てみてくれませんか。雛形をつくってみたんです。使えませんかね?」 「どれ?」  藍沢が指定したファイルを開くと、発売日までのカウントダウンを意識した雛形が出てきた。 「これ、藍沢くんが?」 「はい。何かお手伝いできないかと思って、玩具の使用感と、関係の深まりを連動させてみました。実際にこの通りにいかなくても、ストーリー性があった方が読みやすいかと思いまして……」  目を通すと、空欄になっている場所を埋めるだけで、レポが出来上がるようになっていた。藍沢の組んだ雛形は、開発日誌を俯瞰で見られるつくりになっている。 「すごい。これ、いいね。借りていいの?」 「問題ないです。そのつもりでつくったんで」 「ありがとう。じゃ、これに落とし込んでみるよ」  さすが仕事のできる藍沢は動き方が違う、と颯太は入力しながら内心、舌を巻いた。ものの十五分ほどで入力を終えると、ある程度までなら読めるレポが出来上がる。 「あとは、誤字脱字と細かい表現のすり合わせをすればいいわけか」  颯太が呟くと、藍沢がねだった。 「あとで仕上がりチェックさせてもらっても、いいですか? 一応、俺にも責任があるんで……」  恥ずかしそうに耳を染める藍沢を、颯太はふと意識した。 「いいよ。課長に見せる前に、面倒でなかったら、お願いしようかな。何から何まで、ありがとう。藍沢くん」  颯太が礼を述べると、ちょうど、洗濯乾燥機が終了の音を立てた。  寡黙に「いえ」とだけ言い、メールアドレスを教えてくれた藍沢を、颯太は初めて、可愛い、と思った。

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