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第20話 裏切り者は涙を流さない(3)(*)

 そう促した藍沢は、泣いていた。人は、こんなに静かに涙も流さずに泣くことがあるのか、と颯太は思った。心を持て余し、助けを求めているような顔だ。被害者は颯太のはずなのに、どうしてか藍沢の方が傷ついているように見える。 (おれ、は──……)  諦観というには甘く、胸が抉れるようだった。  藍沢に、心底大事にされてきたこと。優しさに絆されるように好きになったこと。こんな裏切りを受けても、藍沢への気持ちを棄てることができないこと。先に藍沢を切ったのが、颯太の方だったとしても、どれだけ酷い反逆に、気持ちが折れて元に戻れなくなったとしても。  藍沢のことが、恋しい。  どこかで、許してしまう。  そのことに思い至った時、颯太の中で張り詰めていた糸がぷつりと切れた。 「いい、よ……」  もう、嘘はやめよう。  唇が、勝手に震えるように言葉を紡ぐ。 「セーフワードなんておれは言わない。藍沢くんの好きにして。おれ、して欲しいんだ。きみにだったらめちゃくちゃにされてもいい。もう、戻れないぐらいに、して欲しい……」  そう。して欲しい。藍沢と一緒に颯太はしたい。それが例えば裏切られた末の復讐だとしても、藍沢からなら、たとえ罰せられようと、与えられる全てを享受したい。藍沢の持つ情動を理解したい。  静かに呟くと、藍沢は一瞬、今にも泣き出しそうな顔をした。 「……変態、ですね」  初めて放たれた颯太を揶揄する言葉は、藍沢自身に向けられたもののように聞こえた。一歩踏み出した藍沢に、頤を持ち上げられ、唇を食まれる。 「俺としようと思うなんて……」  そのまま辿られるようにして、藍沢に食べられる。互いをいたわり合うような、場にそぐわない口づけだった。嵐の中の難破船のような室内で、もう他に道はないのだと悟るかのような静寂が満ちる。 「ん……」  ファーストキスを奪われた。  颯太が藍沢の舌に応えはじめると、藍沢は自身の前立てを乱し、硬く反りかえった屹立を取り出した。  剛直の鋭さに一瞬、腰が引けるほど驚くが、それを、再び兆しはじめた颯太の茎と一緒に藍沢が掌で揉み込む。 「あ……っ」 (──こんな、に……っ)  太く、前面が張っている。長さも颯太のものより少し長い。血管の浮いた屹立は、ドクドクと熱く脈打ち、颯太を誘惑するかのように鈴口からは透明な粘液を垂らしていた。 「ん……っ、んぁ、ぁ」  藍沢の愛撫に応えたくて、颯太は腰を揺らした。すると、背後にいた野々原が、ディルドを押し込み、悪戯を仕掛けてくる。 「今からこれを──あなたに挿れます」  藍沢は、一緒に握っていた雄芯を一度離すと、両手の親指で颯太の緊縛された内腿を開いた。  そして、狙いを定めるように、藍沢は颯太の太腿の間に、自身の屹立をゆっくりと挿入していった──。

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