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第24話 副社長・大鳥弦一郎(2)
「いや。問題ないよ。全く。ただ、ひとつだけ、気になっていることがあるんだが……」
「気になっていること……ですか?」
颯太が仕向けられたように尋ねると、弦一郎は「うん」と低い声で爆弾を落とした。
「単刀直入に訊くけど、あれ、誰のこと書いたレポ?」
「えっ……?」
意外な切り口に颯太は一瞬、頭が真っ白になった。
まずい。何か社内コンプライアンス的なことだろうか。誰のことを書いたレポなのか、そこまで追求されるとは、さすがに颯太は予測していなかった。
「な、なぜ、そんな、ことを……」
動揺が顔に出てしまい、颯太は内心、舌打ちした。
弦一郎は颯太の顔色の変化に、眉を下げて手を横に振った。
「誤解しないでほしいんだけど、文句を言いたいわけじゃないよ。それだったらメールで美馬坂くんに言えば済むわけだし。ただ、あのレポ、すごく良くできてるんだ。できすぎている、と言ってもいい。これ、実体験を聞き取ったんだよね? できれば、そのカップルを紹介してもらいたいんだが、可能だろうか……?」
さらっと恐ろしいことを提案してきた弦一郎に、颯太は全力で逃げる算段をせねばならなかった。
「その、それは、いったいどういう意味で……」
「言葉通り、知りたいんだ。逢ってみたい。こんな素敵な体験をしているカップルが実在するのなら、少しそっち方面の話を聞いてみたい。後学のために。大丈夫。他言はしないから」
「そ、それを、聞いて……どうなさる、おつもりで……?」
「どうもしないよ。ただ聞きたいだけさ」
弦一郎の悪戯でもするかのような明るい声に、颯太は青ざめた。そんな口約束が信用できるわけがない。
「あの……」
「うん?」
「それは、その……答えるわけには……、や、約束があるので、絶対に、誰にも言わないという条件で、受けてもらっているので……」
「うん。普通はそうだよな」
弦一郎は少し考えたあとで、身を乗り出した。
「でも、ちょっと考えてくれないかな。先方に打診してくれるだけでいいんだ」
「それは……」
颯太は今すぐに逃げ出したかったが、こういう時に限って誰も話しかけてこないし、内線の一本もかかってこない。
その時だった。
視界の端に、ひとつ上のフロアにいるはずの藍沢の姿が過ぎったのは。
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