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第25話 覚悟(2)

「それよりお前、そろそろ期限だぞ? 藍沢」 「お受けします。伝えにいったら、こちらだと言われたので」 「そうか……! 良かった。これで新部署設立だな」 「それより鍵咲さんと何の話を?」  藍沢は弦一郎の期待の言葉に何の愛想も示さず、いつもの調子なのか、刺々しいやり取りを続ける。 「何だよ、しつこいな。内緒っつったろ? 内緒の話なんだから、言うわけないだろ」 「教えてください。俺に関係あることかもしれませんので」  藍沢が危なっかしくて、颯太はついに声を上げた。 「あっ、あの! 実はレポの雛形を提供してくれたのが、藍沢くんで……! それだけなんです。でも、彼のおかげでああいう感じでレポが書けた部分は大きいです」 「へえぇ。藍沢、お前、やるなぁ」 「大したことはしてません」 「可愛げないなぁ」 「副社長は、レポの話をしてたんですか? 鍵咲先輩と?」 「んー、まあ、そういう話もしたかなぁ」 「はっきりしてくださいよ」  あくまでぐいぐい押していく藍沢を、颯太はもう止める手立てを持たなかった。これは最悪、二人揃って処分ということになりかねないと覚悟を決めた時だった。 「別に、知りたいとかそういうんじゃないんだからねっ! てやつだ。でも、藍沢。鍵咲くんは、何も言わなかったよ。ま、一人は見当がついたが」  弦一郎が宣うと、藍沢は冷たい目をした。 「やっぱりレポの件じゃないですか……。副社長。これ、ハラスメント案件ですよ」 「えっ!」 「当然でしょ。鍵咲先輩だって、命令されたら答えないわけにはいかないでしょうし。立場上」 「私はそんな無理強いなんて……」 「それが無理強いだって言ってるんです。だいたい何がそんなに知りたいんですか? ひとりはわかった、ってどういうことです?」  駄目だこれは。  藍沢が突ついているのは、すべてが吹っ飛ぶ地雷だ。言を左右させ、どうにか弦一郎の口を割ろうと試みる藍沢に、颯太は穏便に済ましてくれるよう必死で視線を送るが、目を合わせてくれもしない。  弦一郎は狼狽して口を尖らせた。まるで子どもだ。 「レポのカップルがさ。誰かなぁ、って思っただけなんだよ。ちょっと茶飲み話をしてみたかったんだ。それだけ」  それだけ、と言った弦一郎は、颯太のことを一言も言わなかった。本当にこの人は、内緒話をするためだけに会議室へ颯太を呼んだのかもしれない。  だが、胸をなでおろすには、少し早かった。

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