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第25話 覚悟(3)

「そんなに知りたいなら教えてあげますよ。相手は俺です。あんなことやこんなことも、彼の相手は俺だけです」 「ちょっ……藍沢くん何言ってるの!」  しかし爆弾発言に慌てたのは颯太だけで、藍沢はどこ吹く風で、弦一郎を睨みつける。弦一郎も目を瞠ったものの、寝ぼけたような声で確認しただけだった。 「……藍沢、お前なの? 鍵咲くんの相手?」 「そうですが、それが何か?」 「ちょっ……ちが、ちがいます……っ! 彼は、その、雛形を……。確かにレポのチェックもしてもらってはいますが、それだけで……」  あっさりバラされてしまった颯太が、それでもどうにか取り繕おうと努めるが、その努力をも藍沢はひっくり返した。 「雛形もつくりましたし、チェックもしましたし、鍵咲さんともすることはしました」 「藍沢くん!」 「鍵咲さん。大丈夫です。うちでは、社内恋愛をしたからといって出世街道から外されるような悪習は一切ありませんから。ですよね? 副社長」  社内恋愛?  恋愛なのかこれ?  ぐるぐるする颯太に、だからこの戦いに口出ししてくるな、とでも言いたげな、藍沢の挑戦的な物言いだった。 「ふぅん」  弦一郎は顎を掻いて困った表情になった。この二人、もうやだ。と颯太は思う。だが、まだ絶望するには早かった。 「なぁるほどね。お前か。あ、移動の件、そろそろ解禁にしといてくれよ? 周知徹底、そういや忘れてたわ。このレポが気になってさぁ」 「わかりました」 「んじゃ、私はこれで。あと頼むな?」  弦一郎が立ち上がるのに合わせて、颯太は必死に縋るような声を出した。 「あのっ、副社長……!」 「ん?」  慄然とした颯太が恐るおそる引き止めると、弦一郎はけろっと振り返った。 「この件でお咎めがあるのなら……、それはひとえにわたしの……」 「ああ、ないない。言っただろ。個人的な興味だって。きみ、鍵咲くんだっけ? 漢気あるなぁ。あ、そうだ。あのレポな。もう少し続けてみてくれたまえよ。わたしも含め、ファンがいるんだ。頼んだよ」 「はぁ……」  褒められたのだろうか。だとしても全く嬉しくない。ため息とともに安堵すると、弦一郎はドアを開け、振り返った。 「うちの社運を賭けた男性用ジョイトイも、もう少しでリリースだ。頑張ってくれたまえ」  それだけ声高に言うと、まるできた時と同じように周りを嵐に巻き込みながら、帰っていった。

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