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第26話 「きみが好きなんだ」(2)

「それには及びません。弦一郎副社長は、たぶんちゃんとわかっていると思います」  藍沢の声が淀んだ。  颯太は申し訳ない気持ちと一緒に、恋情が溢れ出すのを自覚した。 (やっぱり、好きだな)  部署が変わったら、今までみたいに気軽には、逢えなくなるだろう。その前に気持ちを整理したい。藍沢は颯太を良く思っていないのかもしれないが、駄目元で言うだけならば、許してもらえるんじゃなかろうか。 「あ、あのさ……」  颯太はうなじを撫でながら、言葉を探した。 「藍沢くんに実はおれ、話があって」 「話、ですか?」 「うん。大した話じゃないんだけど、聞くだけ聞いてくれるかな? 今ここで。おれ……」  心臓の鼓動が速まり、声と身体が震えた。颯太は藍沢から目を逸らしたまま、思い切って声を出した。 「おれ、きみが好きなんだ」 「……は?」  ぽっかり空間が断絶したみたいに沈黙が落ちる。唖然としたらしい藍沢の方を見ることができないまま、颯太は早口で言い訳する。 「ゲイ……なんだ。そういう意味。無理だってわかってるし、期待もしてないけど、逢えなくなる前に一応、言っておきたくて。あ、安心して。何か見返りが欲しいとかじゃないから。本当は黙ってようとも思ったんだけど、気持ちに区切りを付けたくて。……って、最後まで自分勝手だよな。ごめん。今の、忘れてくれると嬉しい。それじゃ、また」  耳が赤く染まる。声も手も震えた。藍沢の方を一度も見られないまま、颯太は恥ずかしくなって、そのまま会議室を出た。藍沢が何か言っていた気がするが、もう振り返れなかった。  自席を目指して歩くうちに、ポケットのスマートフォンが鳴った。 「……もしもし?」  通話をオンにすると、長らく出張に出ていた知り合いからだった。  会社近くの喫茶店で終業後に待ち合わせをすることになり、颯太は首をひとつ振って、藍沢に告白してしまった羞恥心を、心の外へ追い出そうと努めた。

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