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第31話 「いっぱい困ってください」(2)

「指では届かないところです。俺のじゃないと。でも、これから開発したら、ジョイトイでするのもありかも。そしたら、身体、変わっちゃいますね……?」  その時、飛んでいた分の記憶の断片が不意に出てきて、颯太は急に恥ずかしくなった。おっきいの、入ってる、とか何とか、そんなことを口走ったはずだ。 「そんな、の、こ、困る……」 「いっぱい困ってください。あなたの身体は素直だから、開発のし甲斐があります」  藍沢はそんなことを言いながら、少し笑って颯太の隣りに身を沈めた。 「藍沢くんて、わりと意地悪だよな」 「俺は、あなたのためなら、いくらでも意地悪になれますよ。……知ってるでしょ?」  知っている。  藍沢は意地悪で、颯太のことが好きだ。  颯太も、藍沢のことが、たくさん好きだった。 「無理したから、大丈夫なら、今日はもう眠ってください。目覚ましかけましたから」 「ん。へいき……んっ」  唇に触れるだけのキスを落とされる。何度も繰り返されるその仕草に、颯太もやっと、少し慣れてきた気がした。身体は限界を訴えているが、この時間がかけがえのないもののような気がして、大事にしたかった。 「藍沢くん。今、何時……?」  眠気に負けじと尋ねた颯太に、「午前四時ちょい過ぎです」と藍沢は欠伸とともに言った。 「……結局、朝までしちゃいましたね。さすがに眠いです」 「きみ、眠ってないの……?」 「何となく」  言いながら、藍沢は静かに颯太の髪を梳く。 「もったいなくて。俺は、今、幸せなんで、もう少し」  もう少し、起きてます、なのか、もう少し、眺めています、なのか。どちらにせよ藍沢は満ち足りた笑みを浮かべ、颯太を眺めている。 「おれ……、きみが好きだよ」  颯太の小さな告白に、藍沢が目を瞠る。 「意地悪だし、隠し事するし、策士だし、盗み聞きするし、おれのこと騙すし、表情も読めないし、とんでもない奴だと思ってるけど……、きみが好きだ」  言ってから少し照れて、颯太は藍沢の方へ身体を寄せた。  躊躇いがちに、やがて静かに颯太を抱き寄せる、藍沢の手が、優しい。 「俺も、あなたが好きです。颯太さん……」  少し涙声になっているのは、きっと気のせいだと思っておこう。  颯太はそのまま藍沢の腕の中で目を閉じた。

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