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番外編:カート解放後「エッチな玩具の開発担当と逢っちゃいました!?」(2)

「ところできみら、付き合ってるんだよね?」  パスタを平らげ、メインのローストビーフを切り分けている時、弦一郎が切り出した。鍵咲が思わず飲んでいた酒を、一瞬、喉に詰まらせる。相変わらず直線的で核心を突く言い方ばかりする。香ばしい肉の匂いが漂い、シャンパンのほろ酔いと相まって、気持ちを浮き立たせるが、ふわっと酔いが回ってきたらしい鍵咲のグラスを、さりげなく藍沢が自分の空けたそれと交換するのが印象的だった。 「一昨日、くっついたばかりです。ね? 颯太さん」 「ん……あっ、はい……! 実は、そうなんです……」  鍵咲が藍沢に向かって素で頷いたあとで、太一郎たちに向き合い首肯した。 「えっ、でもわたしが聞いた時は、社内恋愛って」  弦一郎が声を上げた。何を期待しているのか、なぜか、どこか不満そうな訴えを、藍沢が引き取る。 「恋愛中でしたが、まだくっついてはいませんでした。あの時点では」 「何それ? 鍵咲くんとレポしてる間はくっついてなかったの? それって最初は身体だけってこと?」 「身も蓋もない言い方しないでくれませんか、副社長」 「だってさぁ」  社員の前でここまでざっくばらんに素を晒している弦一郎を初めて見た太一郎は、少しびっくりする。きっと藍沢だからこその態度なのだろうと思うと、少し胸の内側が焦げる気がした。 「することはしました、って啖呵切ったくせに。わたし、もしかして騙されてたの?」  弦一郎のオカマ喋りに拍車がかかりはじめたので、太一郎は、次はこっそり色付きのソーダ水にしようと決めた。弦一郎は酔いが回るのも早いが、冷めるのもまた一段と早いタイプだ。 「恋愛はしてました。でも、決定打がきたのはあのあとで」 「なにそれ。爛れてる。酷い。傷つくなぁ。わたしの純情返してよ」 「何ですか、純情って。副社長が勝手に誤解したんじゃないですか」 「だってさぁ。……本当に? 鍵咲くん」 「す、すみません、色々ありまして……、その、一昨日、誤解とか、色々なものが諸々解けました……」 「やだぁ、そうなの?」 「鍵咲さんが謝ることなんてないです。副社長が悪いですよ。そんなんだからハラスメント案件だって言われるんですよ」 「い、言ったのは藍沢だけだからねっ……! またわたしのこと悪者扱いするし……! まあ、あれは悪かったとあとで思ったけどさぁ」 「こら、弦。もうその辺で止さないか」 「えーっ、だって」 「酔いすぎ。悪い子にはお菓子あげないぞ」 「それはやだ」 「ふふっ」  お菓子という言葉に駄々を捏ねる弦一郎を見た颯太が、思わずといった感じに吹き出した。 「あっ、すみません。お二人とも、仲がいいと思ったら、つい……。おれ、いや、わたし、はひとりっ子なので、少し羨ましいです」 「「おれ」でいいよ。弦は酔ってるだけだから、許してやってほしい」 「あ、いえ。社長の前でそんな……」 「いいって。これ完全なオフレコだから。それに、今回のジョイトイの成功は、きみらの努力に依るところが大きい。よくやってくれた。ありがとう」 「太一さん、仕事の話はなしでしょ?」  弦一郎にすかさず突っ込まれ、太一郎は素直に謝った。 「あ、そうだった。すまない」 「いえっ。でも、おれたちだけじゃないです。みんな頑張ったから。それに、おれひとりでは、とても。支えられてばかりで」 「颯太さん……」  俯きがちに語る鍵咲の表情が、アルコールを摂取したせいか少し色っぽい。隣りの藍沢がいつしか、名前呼びになっているのも彼らの関係の変化を見るようで興味深かった。弦一郎より半年先に生まれたというだけで、自信のないまま社長業をしなければならなかった若い頃の自分を、つい鍵咲に重ねてしまう。だから、太一郎は、お節介だと思いながらも、颯太を励まそうとした。 「もちろんそうかもしれない。そういう面もあるだろうけれど、きみも、頑張ったうちに入るんだよ。僕から言わせれば。自分を認めることも、時には必要な仕事のひとつだ」 「は、はい」  鍵咲は頬を染めて太一郎に頷いた。どうやら彼は少し自己評価が控え目すぎるきらいがある。でも、いいパートナーに恵まれたようだし、きっと変わっていくだろう、と太一郎は思った。 「それで、きみらの馴れ初めってどんなだったの?」 「あ、はい。二年前の雨の日に……」  太一郎が話題を振ると、鍵咲と藍沢は少し互いに目配せをし合ってから、話しはじめた──。

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