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第3話

 莉良は、ぎくとぎこちなく飲んでいた湯呑みをテーブルに置く。 「それが、だいぶ難航していまして……プロジェクトメンバーと案を出し合っているんですが、どうも意見が合わなくて」 「そうなのかぁ。大変だなあ。でも、プロジェクト始まってからもう1年経つだろう? 大丈夫なんか?」  莉良はまた、心の中にぐさぐさと針を刺されているような気分になった。そうなのだ。渡辺が心配するように、このプロジェクトは来月で1周年に突入する。莉良と副リーダーの加瀬、会計の田中の3人では意見という意見も少なくて、ほとほと困っていたところだ。  莉良はこの村ーー梶山村の村役場職員として働いている。来月でちょうど、2年目になる。莉良の生まれは東京都の青山。父親は外交官、母親は大学教授という職についていたためか、子どもの頃から何不自由ない生活を送ってきた。  莉良が社会人になるまでは順風満帆だった。  新卒で入社した会社は、パワハラのオンパレードだった。ライバル意識というより、妬み嫉みに深く落ちている同僚たちと仕事をするのはとてもストレスだった。そこで1年間働いたあと、半年間の休養を心療内科の医師に言い渡された。このときの莉良の状態は悪く、睡眠も浅くしかとれないので睡眠導入剤を飲んでいたくらいだ。半年間、実家に戻って休養をとると身体はたちまち回復した。やはり、仕事環境は生活に大きな影響を及ぼすのだと感じた。  体調が安定した頃、なんとなくネットで求人を探していると、こんな宣伝があった。 『空気が美味しい自然豊かな村で、いちから人生を始めてみませんか』  いちから始める。その言葉が莉良にとっては、ひどく響きの良いものだった。その日の夜には応募書類を作成し、郵送していた。

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