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第8話

 車が目の前で静かに停車する。やっぱり、ランボルギーニだ。こんな近くで拝める日が来るなんて。ドアが開き、運転席から長い手足が見えた。すらりとした足が、地面につく。革靴も磨きあげられていてピカピカの黒光りだ。莉良は作業着姿の自分が少し恥ずかしくなった。  ぬっとドアから男性が出てくる。背、高いな。莉良は平均男性の身長より少し小さいくらいだった。身長には昔からコンプレックスがある。165センチ。もう少し、あってもいいではないか。背の高い人を見ると、それだけで嫉妬してしまう。けれど、莉良の担当の宗方という人物は身長以外にも嫉妬する部分があった。 「お待たせしてしまいすみません。櫻川様ですか?」 「は、はい」  恐ろしいほどに顔が整っている。顔のバランスが黄金比とでも言うのだろうか。くっきりとした二重に、繊細そうな長い睫毛。唇は薄く、ほほ笑みを浮かべるために横に引っ張られている。瞳は三日月のように細められている。 「わたしが櫻川様の担当となります。宗方(むなかた)と申しまふ」  え? 今、まふって言った? 宗方はにこりと笑うだけで名刺を差し出してきた。莉良は自分の聞き間違いだろうと思って、自分の名刺を差し出す。 「チャットではお世話になりました。丁寧にやりとりしていただいて安心しました。櫻川と申します。よろしくお願いします」 「はい。ではさっそくですが、梶山村の案内をお願いしてもよろしいですか? 車はわたしが運転しますので、櫻川様は道案内をお願いします」  莉良はランボルギーニに視線を泳がせる。 「車に乗らせていただくなんて……いいんですか?」

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