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第9話

「はい。徒歩で行くのは大変でしょう。5月半ばですし、熱中症の危険もありますから」  そう言って、宗方は助手席のドアを開ける。莉良はごくりと唾を飲み込んで車に乗り込んだ。やばい。長靴だし、泥付いてるだろうし……怒られるかな。乗るのを躊躇っていると、宗方が隣で微笑んだ。 「気になさらないでください。汚れても構いませんので」 「すみません。お邪魔します」  莉良は腰を低くして車に乗り込んだ。程なくして、宗方も運転席に座る。スウゥンと車が発進した。砂利道だというのに、ほとんど車体はがたつかない。莉良は、右やら左やら指さして道を教える。カーブが難しい坂道も宗方はなんなく走っていた。ハンドルさばきは的確で、無駄がない。車に乗っていて、これほど安心感を覚えたのは初めてだった。30分ほど村の名所を案内し終えてから、村役場に向かった。 「ありがとうございました」 「いいえ。とんでもない」  宗方はセットされた黒髪を指で整えると、莉良の後ろにぴたりとついて歩き出す。 「ただいま戻りました。お客様がいらっしゃいました」  村役場の受付で声をかけると、莉良を含めて5人いる職員が全員立ち上がり、お辞儀をする。いらっしゃいませ! と元気よく挨拶した。宗方は「お邪魔します」と口にして、軽く村役場を見渡した。きっと、ぼろい建物だと思われてるんだろうな。莉良は少し落ち込みつつ、表上には出さないように宗方を会議室に案内した。少し埃っぽいが、窓も開けたし大丈夫だろう。長机の前にパイプ椅子を用意して、宗方に指し示す。 「失礼します」  椅子に座るときにも声をかけるなんて、律儀な人だなあ。莉良は感心していた。

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