16 / 24
第16話 ポメ柴のような依頼者(side 宗方)
旅館でくつろぎながら、この2泊3日の梶山への登山を振り返る。
梶山は毎年村役場の手入れが入ると行っても、登山用の山とは呼べない様子だった。ガイドの農家である渡辺によると熊はいなくとも、ウリボーや鹿、ニホンカモシカなどは生息しており、生態系のバランスは取れているそうだ。
草食動物の餌も豊富で、凶作のことはほとんどないと言う。
そのため、野生動物はめったに山から下りてこないので人里と上手く共存していると。
わたしは人材派遣会社ウェルムから派遣されてきた手前、依頼者の櫻川様の希望に寄り添った支援をしたいと常々思っている。
今回の登山の目的は、梶山を観光としての山にできるかの調査だった。梶山村の人口は少なく、少子高齢化は都会の比ではないほどに深刻だ。梶山をハイキング用の山に整備するには更に時間と費用がいるだろうと検討する。
櫻川様のご要望は、村おこしのための古民家カフェ運営なので、登山はちょっとしたおまけとして取り組んでみたのだが……。あまり慣れないことはしないほうが良かったかと、足の裏にできた皮豆を見つめる。
旅館の女将に勧められて風呂に入ってすっきりしたとは言え、腹も空いている。女将が簡単に豚汁と梅しそこんぶおにぎり、梶山村の目玉商品の緑茶を淹れてくれたので有難く味わうことにした。
緑茶の葉は江戸時代から梶山村の名産だったと聞いている。熱いお茶を啜りながらその薫りに癒される。一口目は渋みがつんと鼻先にくるが、その後に程よい甘みがぎゅっと濃縮されていて舌に溶けていく。
「櫻川様の仰っていた通り、老若男女誰でも楽しめるな。梶山茶は」
ひとり呟きながら、立ち上げたパソコンに今の感想を綴っていく。
幸い、この数ヶ月で古民家カフェ運営のための資金は合計500万円も集まった。
得に、動画配信サイトの概要欄に載せたクラファンからの流入が著しい。りらくんに熱心なファンほどそれぞれのSNSを媒介にして、推しの夢を叶えるために貢ぐ傾向がある。
特に、りらくんというネットアイドルに限ってはファンの年齢層が幅広いことも功を成しているようだ。マダム人気の高いりらくんは、特に投げ銭やクラファンでの資金集めに向いている。親子で応援する人も多いようだ。
また、20代から30代の若者では、りらくんオリジナルグッズのトレカや写真集、アクリルキーホルダー、証明写真を販売することでコツコツと資金集めができている。推し活世代にフォーカスした構造にしてある。
それも全てりらくんを演じる櫻川様の熱心さや、嘘偽りのない村おこしのための情熱が画面を通してファンに伝わっていることの表れだと思う。
それにしても、とわたしは考える。
見れば見るほど、関われば関わるほど、櫻川様はまるでポメ柴のようだ、と。
古くからの知人で黒いポメ柴を飼っている者がいて、パピーの頃からたまに触らせてもらっていたが、触り心地が同じだ。
さっき、頭を撫でた時のあたたかさや、つぶらな瞳、そしてわたしの帰りを待ちわびていた様子がどこか知人の飼っているポメ柴を連想させた。
それでつい、櫻川様の頭を撫でてしまったが悪い気をさせていないか後になってから後悔している。
だが、わたしの安否を確かめてくれる人がいるというのは大変嬉しいことに思う。
わたしの家柄として、あまり心配された経験が少ないというのもあって、櫻川様の優しさに甘えている部分もあるのだろう。
とにかく、今は一刻でも早く疲れを取って、明日からの仕事に精進しなければ。
櫻川様の夢を叶えるために。
ともだちにシェアしよう!

