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第22話 再会と告白
「失礼します!」
株式会社ウェルムのオフィスのお客様入口から入る。大きな声で挨拶したからか、オフィスにした窓口の男性がぎょっとした顔を浮かべたのが見えた。
「はい、どうされましたか?」
丁寧な物腰の男性だったが、顔に傷跡があり少し驚いた。なんとなく、カタギの人間っぽくない空気を醸し出していたから。
それでも莉良は恐怖に竦む足を叱咤激励し、訪問内容を告げる。
「こちらの会社に宗方さんという男性の方がいると思うのですが、今どちらにいますか?」
宗方、という名前を出したところオフィスの空気が急に張り詰めたのを感じて、莉良はごくりと唾を飲み込んだ。目の前の男性も眉を吊り上げている。
「ええ。弊社には宗方という社員がおりますが、何用でこちらへ?」
疑うような視線に突き刺されそうだ。
「はい。実はこの数ヶ月、宗方さんにお世話になった梶山村からまいりました、櫻川と申します。宗方さんにお礼を伝えたくお繋ぎいただきたいのですが……」
莉良の言葉に強面の男性は急に弾けるような笑みを浮かべた。オフィス内の雰囲気も急に柔らかくなる。
「そうでしたか。いやあ、すみません。わざわざ遠くから。あいにく、宗方は現在外出しておりまして……あと30分ほどでこちらに戻りますので、それまで応接室でお待ちいただいてもよろしいですか?」
「もちろんです!」
応接室に案内された莉良は、熱い緑茶とお煎餅をいただきながら、ほっと胸を撫で下ろす。
なんとか宗方には会えそうだ。
それにしてもオフィスの雰囲気がころころ変わるんだな。宗方の名前を出したら皆睨むような視線を送ってきたし。宗方は鬼上司なのか?
そんな不思議なイメージを抱きつつ高級そうなソファに座っていると、応接室のドアが開いた。そこに現れたのは──。
「櫻川、様?」
「っ宗方さん!」
スーツ姿の宗方だった。前髪を固めている。銀行員のような出で立ちだ。宗方は状況が理解できていないようで、少し落ち着かない様子だ。そんな宗方を見るのは初めてで、急にアポなしでやってきてしまったからご迷惑をかけてしまったんじゃないかと、莉良は後悔した。
「ひとまず、ここではあれですから、場所を移動しませんか?」
「え? はい。宗方さんに合わせます」
ここで話さないんだ、というのが率直な意見だった。社員と顧客ではこの応接室で話すのが王道かと思っていたが、都会の会社は規則がゆるいようだ。
「では、東京タワー近くの芝公園へお願いします」
「はい」
宗方に連れられ、タクシーに乗り込む。タクシーなんて久しぶりに乗った莉良はわくわくしてしまった。昔は見慣れた都会のビル群の風景に言葉が出ないでいると、宗方が少し笑い声を洩らすのが聞こえてきて後ろを振り返った。
「ビルを見るのは久しいですか?」
「あ、はい。梶山村だと高い建物はありませんから……」
ゆるい談笑の後に、宗方は喋らなくなってしまった。窓の外を見つめて真剣な眼差しを外の風景に送っている。その横顔はモデルのように綺麗だった。高い鼻、薄い形のいい唇、陶器のように白くすべすべな肌。妖艶な瞳。その全てが莉良の目に焼き付いていた。初めて会ったあの日からずっと、忘れられなかった。
芝公園につくと、既に空が藍色に染まり出していた。公園内ではレジャーシートを敷いて談笑するカップルや家族連れの姿がちらほら見えた。
「わ、綺麗……」
赤く光る東京タワーのライトアップに思わず声が洩れていた。東京の夜景を見るのも久しぶりだった。眩いほどに光り輝く東京タワーは日本のシンボルだ。
「櫻川様、よろしいですか?」
「はい」
宗方に声をかけられ、すぐに仕事モードに切り替える。
「キャリーケースまで持ってきてわたしに会いに来てくださったんですか。どうしてですか?」
純粋な疑問のようだ。莉良はゆっくり一言一言噛み締めるように言った。
「宗方さんがいなくなってから、俺、1週間寝込んでしまいました。すごく情けない話ですけど、心の拠り所がなくなって落ち込んでしまいました」
嘘偽りのない素直な気持ちを伝えたかった。だから、その先も伝えた。
「俺、こんなふうに人のことに興味を持ったの初めてで……。宗方さんが自分にとってどれだけ大きな存在なのかを、失ってから気づきました。だから、俺は──」
意を決して告げようとした瞬間、宗方に腰を抱かれて急に距離が0になった。
「待ってください。そこから先は、わたしに言わせてください」
「あ、はい……」
腰に回された腕は細いがしっかりしていて、力強く支えてくれている。密着した肌は服越しなのに熱くて心地いい。ずっとこのままくっついていたい。それが莉良の本心だった。
「まず、わたしは謝らなくてはいけませんね。櫻川様の目の前から突然消えたことをわたしも後悔していました。同じく、1週間ほど無気力に過ごしていました。そこは似ていますね」
少しだけ宗方の口端が上がる。莉良もくすりと笑った。
「ただ、ひとつだけ。櫻川様に隠してきたことがあります。それを聞いてもわたしを信じてくれるなら、わたしはあなたのために身を尽くします」
なんだろう。宗方の目は真剣そのものだ。何か重大なことを告白しようとしている。
「わたしの家はカタギの人間ではありません。わかりやすく言えばヤクザの若頭をしています。暴力的なほうではなく、インテリヤクザと自称していますが」
最後のほうはしりすぼみで声が震えていた。
「インテリヤクザ……?」
莉良にとって初めて聞く単語だった。ヤクザはなんとなくわかるけど、インテリヤクザってなんなんだ? そんな疑問がわいた。それに気づいた宗方がゆっくり説明してくれる。
「わたしは若頭としても、株式会社ウェルムの社員として働いています。いわゆる、フロント企業というやつです。わたし自身はキャリアコンサルタントの資格を持っているため、今回の櫻川様のケースのように、何かお困りのお客様の元へ派遣され問題解決をするのが仕事になります」
「……なるほど」
わかったような、わからないような。曖昧な感想になってしまうが、莉良にとって宗方は良い人だ。だから今更実はヤクザなんですと打ち明けられたところで、そうなんだ、くらいの感想しか持ちえなかった。
「わたしの正体を知って嫌いになりましたか?」
いつもは自信に満ち溢れている宗方が、おずおずと聞いてきた。莉良はそのギャップが面白くてツボに入ってしまった。ごほん、とひとつ咳払いをして宗方の目をまっすぐ見て告げる。
「嫌いになんてなりません。だって、俺にとって宗方さんは宗方さんですから」
「……櫻川様」
驚いたような宗方の声音。
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