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2.どきどきタコヤキ
楽しみ過ぎて早目に乗った電車で居眠りして乗り過ごし、待ち合わせ場所にギリギリに着いたらピグ森が待ってた。
スーツじゃないピグ森が新鮮で目が回りそう。スラックスにチェックのチェスターコートを着てゆるくマフラーを巻いた紳士が、俺を見つけて笑いながら手を振るとか、鼻血ものだろ。
クリスマス目前のショッピングモールはクリスマスツリーやらイルミネーションやらの飾りつけで賑やかだ。
忘年会のゲームの景品を2人であーだこーだ言いながら選んだ。はしゃいでる俺がふざけて選んだ変な物を一緒に笑って、やっぱデートだろこれ、って思う。
買い出しが終わっても一緒に居たい俺は休憩と称してカフェに誘った。ショッピングモールってこういうとき便利。ちょっと休憩してこうって気軽に言える。違う休憩でももちろんいいんだけどね、あり得ないから。ちょっとでも2人になれるチャンスは逃さねぇぜ。あー、俺ってなんて乙女なんだろ。
買い込んだ物を抱えてモール内のカフェに入り、それぞれカップを持って席についた。カフェオレを啜って一息つく。
「もうすぐクリスマスだな。今年も恋人いないけど」
「そうなんだ。柏木ならすぐにできそうなのにね」
「俺なんかフラれてばっかだよ。ピグ森は?」
「僕は無理だよ。……地球ウケしないだろ? ピケモシナ星人て」
「そうかな。全然イケると思うけど」
むしろ大好きだけど。でもモテたらヤダな。
「ピケモシナ星人て雌雄転換するって聞いたんだけど、好きな人できるたびに変わるの?」
「うーん、思春期ごろ好きな対象に合わせた性別になるんだよね。自分の性に合う人を好きになるから大抵は変わらないんだ」
「たまに変わる人もいるの?」
「たまにね」
ピグ森はオス型だからやっぱ対象は女性か。わかってたけどショック。俺はちゃんとなんでもない顔できてるかな。
「……でも、雄型だからかならず女性を好きになるわけじゃないんだ」
「途中で男を好きになったりするってこと? そのときは雌雄転換するんだろ?」
え!? マジで?
いきなり出現した希望に驚いて身を乗り出したら、ピグ森が苦笑した。
落ち着け、俺。ここで引かれちゃ元も子もない。
「大抵は転換するんだけど、しない個体もいるんだ」
「ホルモン分泌がうまく働かなくて転換できないとか?」
「そういうこともあるよ。今は治療薬があるからだいぶ良くなった」
「へー」
グイグイ聞き過ぎたかな? でももっと聞きたい。ピグ森がどうなのか聞きたいけど、そんな個人的なコト根掘り葉掘りするのも失礼だよな。興味本位とか思われたらどうしよう。興味はあるけど、それは好きだからでって言えるわけないし。
一人で気まずくなってる俺にピグ森は優しく笑って、そのまま話を続けてくれる。
優しい! 好きッ!
「地球人は雄型でも雌型でも、対象は決まってないよね。分かり辛くない?」
「うーん、でも対象だからって相手に好かれるって決まってないし、どちらにしろ『自分』を好きになってもらわないといけないから」
「……かっこいいね」
「あはは、フラれてばっかだけどね。俺なんか、男が好きだって言ってるけど誰にも誘われないし」
「もったいないね」
「そう言ってくれるのはピグ森だけだよ」
優しく笑って言うから、メチャクチャ心臓跳ねた~。ドキドキして死にそう。もー、この優しさが! 勘違いしそう!
「この荷物、忘年会の日まで僕の部屋に置いておこうか? 柏木は電車だから荷物持つの大変だろ?」
「え、でも、当日になったらピグ森が一人で運ぶことになるし」
「僕の家なら会社まで近いから、その日はタクシーに乗るよ」
「あ、ほら、悪いからさ、……俺、迎えに行こうか? 朝、ピグ森の家に寄るからさ、荷物持って一緒に会社行くとか」
ピグ森の家に行きたい下心に気づかれませんよーに! 朝から一緒って、なにその幸せ。たまらん。俺の鼻息、荒くなってそう。
向かいに座るピグ森はちょっと驚いたみたいだけど、ニッコリ笑った。
「柏木がいいならそうしようか。じゃあ、荷物置きに僕の家に行こう。このあとの予定ある?」
「ないっ。まったくなんにもない、よ」
「荷物置いたついでに晩ご飯も食べる?」
「あ、いいな! うん、食べよう。ピグ森のうちで? どっか食べに行く?」
「うちでもいいよ。大学はタコ焼きの国だったから、タコ焼き器あるし」
「タコパ! 懐かしいな~。久しぶりにタコパするか」
「いいね。材料買って帰ろう。どの中身が好き?」
浮かれまくってタコパ話で盛り上がりながら、ピグ森の家に向かった。
好きな人の家で2人でタコパとか、なんという甘酸っぱさ! 俺の乙女心は爆発寸前よ! まあ、酒を飲んであわよくば、という下心がないわけでもない。俺は諦め悪いヤツなのだ。
ドキドキしながらピグ森の家に入って深呼吸をした。なんかイイ匂いもする~。スッキリ片付いた広めのワンルーム、その隅にあるベッドを凝視しちゃうのはサガってやつですよ。
「すごいな、俺の部屋なんて散らかりっぱなし」
「ハハハ、僕もたまたま掃除したところだっただけだよ。荷物はここに置いて」
「うん」
俺って今、ピグ森のうちにいるんだぜ! めちゃくちゃ興奮する。
内心の興奮を押し殺して、一緒にタコ焼きの準備をした。狭い台所に2人で並ぶと距離が近くて血圧上がる。俺より少し低いピグ森の長いまつ毛とかプリっとした唇とかを盗み見して、心臓がやばい。
「ん、どうかした?」
「あっ、いや、手際良いな~って思って」
「結構、料理するから慣れてるんだ」
地球人より長くて関節が多いピグ森の指が柔らかく動いてタコを切っている。それに見惚れてヨダレが垂れそうになった。
あぶね~。これじゃセクハラだ。
テーブルに材料と道具を並べて床に座った。ビールのプルタブを開けて軽く乾杯する。
「お疲れ~」
「お疲れさま」
ピグ森の円らな黒い目が優しく細められて、それだけでドキッとした。顔が赤くなるのを隠すためにビールを煽る。やばい、正気を保てる気がしない。
「最初はタコだよな」
「そうだね」
タコ焼き機に生地を入れて焼きながら、前から知りたかったピグ森のことを聞いた。
「ピグ森はさー、なんで地球にこようって思ったの?」
「地球の音楽とか好きだったんだよね」
「へー、意外。学びたいことがあったとかそんなイメージだったから。でも、いいな。好きなもので決めちゃうって。誰が好きなの?」
「かけようか。アレックス、音楽かけて」
ピグ森が音声デバイスに声を掛けたら、懐かしい曲が流れた。
「お、これ、子供の頃よく聞いてた。親が好きだったんだよね」
「知ってた?」
嬉しそうな笑顔を向けられてキュンとする。俺、キュン死するかも。ビール煽っといて良かった。顔が赤くても言い訳できる。
「焼けたかな」
誤魔化すようにタコ焼きをつっついて頬張った。自分を落ち着かせるために焼けてるタコ焼きを取り分ける。
「日本を選んだのは?」
「あー、留学できる国の中で、同性愛者への暴力事件が一番少ないのが日本だったから。それと、日本人は異星人を見慣れてるって聞いたから、僕でも大丈夫かなって思って。でも、親しくしてくれても友達と恋人じゃ違うんだよね」
「え?」
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