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3.やっぱナシとか、ナシだから

   え? 俺の聞き間違い? 同性愛者って言った? 「驚いた?」 「え、うん」 「僕たちって性別変わるから、自分がオスかメスかこだわる人って少ないんだよね。オスが好きならメスになればいいって感覚なんだ。だから、僕がオスのままでオスが好きって受け入れてもらえないっていうか。体質に問題あると思われるんだよね。性別変える治療受けたらってアドバイスされるんだ」 「へ~、また違う苦労があるんだな」 「うん。だから他の星なら僕でも受け入れてもらえるかなって思ったんだけど、難しいね。恋人として誰にも選ばれないのは……、まあ僕の魅力がないんだろうけど」  衝撃で固まってたけど、ピグ森の寂しそうな笑顔に胸が締め付けられた。  誰にも選ばれないって俺も思ったことある。前に付き合った相手、俺は恋人だと思ってたのに『遊びにきまってんだろ。遊んでやっただけありがたく思え』って言われてすげぇショックだったんだよな。俺は誰からもまともに相手してもらえないんだって落ち込んだ。  そのときのやりきれなさを思い出して悲しくなる。ピグ森をなんとかして励ましたい。こんな優しいのに。そりゃ、一般的なイケメン基準からは外れてるけど、でもそこが可愛いし。 「そんなことないって! ピグ森は優しいし、可愛いし、落ち着きがあって頼れるし、良いトコあるだろ。みんな見る目ないんだよ。俺だったら喜んで付き合う!」  あ、やべ。最後は余計だった。願望が口からはみ出た。 「あ、えーと、それくらい、良いってコトだから。はは」  驚いてるピグ森に笑って誤魔化し、ビールを飲んだ。誤魔化せたか?  チラッと見たらピグ森の顔が赤い。照れた、とか? え、そうだったらどうしよう。俺の顔も熱くなる。たぶん、真っ赤になってると思う。 「……えーと、ありがとう、柏木」 「い、いや、ホントのことだし」 「……ホント?」 「あ、う、……うん」  あああああ! どうしよう! めちゃくちゃ恥ずかしい空気流れてんだけどっ!  余裕を見せてスマートに誘うなんて高等技術あるわけねーし! このまま告って断られたら気まずいどころの話じゃねーし、誤魔化すったって限度があるしっ! 「柏木も可愛いよ。明るくて一緒にいると楽しい」 「え」  え、ホント? 本気? 褒め言葉のお返し? それでもすんげー嬉しいけど、どうすりゃいいんだ?  落ち着かなくてビールを口にしたら、最後の一口だった。 「ビールお代わりする?」 「あ、ああ。いいよ、自分で取るから」  立ち上がって冷蔵庫に向かったピグ森に遅れないよう、慌てて立ったら前のめりによろけた。ピグ森の背中に片手が当たり、床にヒザが着く。 「おわっ! ……って。わるい」 「大丈夫? 酔った?」 「少し酔ったかも」  俺みたいのが酔ったって可愛くねーけどな。あ、可愛いって言ってくれたっけ。今ごろ無性に嬉しくなって笑いが込み上げた。ホントに酔ったかも。 「はははっ」 「柏木?」 「いや、嬉しいと思ってさ。前にさー、付き合ってたヤツからは酷いことしか言われなかったから。ありがとな」  口に出すとやけに切なくなって、まだ引き摺ってたんだな~と思った。結構前のはなしなんだけど。  立ち上がって心配そうなピグ森の肩を叩いて笑う。 「飲もうぜ。次はチョリソー入れて焼くかな」 「……きっと相手が悪かったんだよ。僕だって柏木なら喜んで付き合うし。まあ、僕から言われても仕方ないと思うけど」  爆弾発言をかましてくれたピグ森は、冷蔵庫から取り出したビールを俺に差し出した。  感傷的になってたせいか、なんかその手が救いを差し伸べてくれたみたいに見えたんだ。俺のための愛情っていうか、そんなふうに。  だから、思わず手を掴んじゃったし、酔って緩んだ口から本音がこぼれた。 「じゃあ、付き合ってよ」  あっ言っちゃった、と思った。自分の言葉に自分でビックリして声が出ない。ていうかピグ森も動かない。  数秒の沈黙が重すぎて誤魔化そうとしたら、静かな声が返事をした。それは静かな部屋にやけに響いて聞こえた。 「…………僕でよければ」 「……っ、あ、じゃ、じゃあ、付き合うってことで!」 「うん」  やっぱり止めたと言われたくなくて、急いで言葉をかぶせた。ピグ森が落ち着いてるのに俺だけが焦って、どうしていいかわからなくなる。  やけに温かい手を見たら、握りっぱなしだったことに気づいて慌てて手を離した。その拍子にビールが床に落ちて大きな音を立てた。 「あ、ゴメンっ」 「大丈夫。これ泡立ってるだろうし、結構酔ってるみたいだから柏木は水にしなよ」 「え、え。……でもチョリソーにはビールだろ?」 「炭酸オレンジも合いそうじゃない? 試してみようよ」  ピグ森がいつものように話すから、わけがわからなくなった。夢じゃないよな? 付き合うって話になったよな? なかったことにならないよな?  気になるけどしつこくしたくなくて、ふつうに座って食事を再開する。 「なかなか合うんじゃない?」 「そうだな」  なんだかよくわからない気持ちで、ニコニコ笑うピグ森とタコ焼きを食べた。  食べ終わった後の片付けをしながら、帰りたくないなんて思っちゃって、一人で照れた。付き合うって話になったばっかりなのに、いきなり帰りたくないなんて言い出したらどう思われるかな。でも、一緒にいたいし。  食器を洗うピグ森の隣で食器を拭いてたら、やけに甘酸っぱい気持ちになったせいで、切ないのにニヤケるというわけわかんない状態だ。 「柏木」 「ん?」 「今日は泊まってく?」 「えっ、あ、……うん」  ピグ森が返事をした俺を見て笑ったから、撃ち抜かれた。たぶん顔真っ赤。  夢じゃなかったよ。やっぱ付き合うんでいいんだ。泊まるって、そういうことだよな? おいおいおい、どうしよう。

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