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5.俺って愛されてるぅ!
それから俺たちは一緒にすごすようになった。といっても、昼メシは今までも大抵一緒に食べてたし、雑談もよくしてた。ただ、終業時間が重なりそうなら一緒に帰ってピグ森の家で飯食ってナニしてってふうに変わった。
休み前は泊まるけど、平日は家に帰ってる。ホントは毎日泊まりたいどころか一緒に暮らしたいけど、最初っからそれじゃ重いかなーと思って。もしかして重い男だからうっとうしがられてフラれたのかも。
楽しいはずの付き合いたてなのに悩みはつきない。コーヒー飲みながらため息ついてたら、鈴木主任に声をかけられた。
「おう、柏木。来週だけど準備どうだ?」
「あ、主任、お早うございます。全部終わりました」
「お~バッチリだな」
「はい、ピグ森が手伝ってくれたんで」
「そうなんだ、ピグ森もありがとな。じゃあ来週よろしく」
鈴木主任は爽やかな笑顔を残して呼ばれたほうへ忙しく歩いていった。あんなふうに笑ったら俺もモテるかな~なんて思ってたんだよな。けど、ピグ森は今の俺を可愛いって言ってくれるし、モテたいっていうよりピグ森に振り向いてもらいたかっただけだからもういいや。なんか目標達成ってヤツ? 今じゃラブラブだもんね。へっへっへ。
「楽しそうだね」
やべ、ニヤけてた? だらしない顔してたかな。
「いや、知らないうちに目標達成してたからさ」
「なんの話?」
「あー、いや、こっちの話」
欲望ダダもれな目標が恥ずかしくて誤魔化したら、ピグ森が真顔になった。急に温度が下がったみたい。
なんだ? 俺、なんかした?
「え、ピグ森?」
「……帰りに話しよう」
「え、うん」
ピグ森の黒い目と平坦な声にドキリとする。
え、なに? 怖いんだけど。
そのあとは意外と忙しくなって、問い合わせ対応で時間がずれ込んだせいで昼メシを一緒に取れなかった。不安になりつつ、残業を急いで終わらせてピグ森の家に帰って合鍵でドアを開けたら、ピグ森が迎えてくれた。
「お帰り、柏木」
「ピグ森、ただいま」
作り笑いが怖い。
「俺、なんかした?」
「……僕は柏木に関係ないの?」
「なんで? なんのこと? だって、付き合うって。……もう、俺に飽きた?」
「違うよ。柏木が僕に関係無いって言ったんでしょ」
「言ってない! なんだよそれ!」
「朝、鈴木主任と話したあと、こっちの話って言っただろ。柏木は鈴木主任となにかあるの?」
「なんもない! あるわけない。……こっちの話って、その、俺の中だけの話で」
「やっぱり鈴木主任が好きなんじゃない?」
「違うっ! なんでそうなるんだよ! 俺は最初っからピグ森がっ、……あ、ええと、いいな、って思ってて」
誤解を解いてる途中なのに、なんでいきなり告白したみたいになってんの。俺のアホ。恥ずかしい。
「本当に? 誤魔化してる?」
ピグ森が低い声にビビる。
なんでこんな疑われてんの? 好きでもない鈴木主任をさ。前も違うって言ったのに。もしかして全部言わないと疑われたまんま? 俺のアホな考えを? ……疑われるより、恥晒すほうがいいか。俺はイチャイチャした恋人になりたいんだよっ! そのためなら恥くらいなんでもねーさ。
「ピグ森がノンケだと思ってたからっ! ほら、鈴木主任て男と女、両方から人気あるだろ。だから、ああいう感じで爽やかに笑って雰囲気真似したらさ、ピグ森も男の俺に流されてくれるかな~なんて考えてたんだよ」
アホだろ。全然スペック違うのにな~。あ~あ、バカみてぇ。
自分で考えて自分で落ち込む。俺のアホさが恥ずかしくて、恐る恐る盗み見たら顔を手で覆ってた。
「……呆れた?」
「え、あ、いや、ううん。嬉しい」
ピグ森にギュッと抱きしめられる。
それだけで安心してガチガチだった体が緩んだ。俺も抱きしめ返してピグ森の毛の中へ鼻を埋めた。温かくていい匂いがする。
「ごめん、2人の秘密みたいに聞こえて嫉妬した」
「え、そうだったの? 言い方悪かった。俺のほうこそゴメン。忘年会の準備頼まれただけで、それ以外のことは何もないよ。教育係だったからさ、何かと気にかけてくれてるんだと思う。……俺はピグ森だけだし」
「うん」
嫉妬か~。へへへ、なんじゃこりゃー、嬉しいだろ~。嫉妬だって。うわー。
めちゃくちゃ上がったテンションの行き場がなくて、ピグ森の肩にグリグリおでこを擦りつけた。たぶん、今の俺はニヤケすぎて気持ち悪いと思う。
「どうしたの?」
「いやーだってさー、ヤキモチやいてもらえるの嬉しいだろ」
「……重くて嫌じゃない?」
「嫌じゃない。すげー愛されてるみたいで嬉しい」
「……うん、愛してる。誰にも渡したくない」
「……う、うわーうわーうわ、死ぬ。嬉しすぎて死ぬ。どうしよう。俺も。……俺も愛してるし……って、うわーなにこれ恥ずかしい」
「ハハハ、嬉しい。本当に?」
「ホント、オレ、ウソツカナイ」
「顔見せて」
ピグ森の指に顔を上げられ、たぶん真っ赤になってる顔を見られた。ピグ森の黒い目がユラユラ揺れて俺を見てる。溺れそう。
「柏木のこと、名前で呼んでいい?」
「『ナビトリク』って? 笑っちゃわない?」
「笑わないよ。どういう名前が普通かとか、そういうことわからないし」
「そっか、そうだよな~。でも俺が笑って雰囲気台無しにしそう」
「僕につけてくれた『ピグ森』って愛称みたいに呼ぶのは?」
「それならいいかも」
「ナビトリク、ナビト、……ナビィ、は?」
耳元で囁かれた甘ったるい声に鳥肌が立った。頭の中に入り込んだ湿った吐息で、内側から犯されたみたいだ。
「ぁ、えーと、いい、かな」
「気に入ってくれて嬉しい。ナビィ」
たったこれだけのことで勃起した俺のチンコを優しく撫でながら、楽しそうに話すから恥ずかしくていたたまれない。
「ぅ、……俺もピグ森のこと、名前で呼ぶ」
「うん、呼んで」
「っ、ぁ、……ピモン、……ん」
俺もカッコよく名前を呼ぼうと思ったのに、ピグ森の長い舌先が耳の穴に入り込んでグチュグチュ音を立てるから、物欲しげなだけになった。
「……っはぁ、嬉しい。憧れてたんだ。ナビィ、……可愛いナビィ」
「ん、……っあ、ピモン、」
この日は名前を呼びながらメチャクチャ盛り上がった。
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